論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する― 
【前編】

佐々木 信夫

「大阪市解体、5つの特別区に分割」を検証

争論2.「今の「都構想」は、要するに「大阪市を解体して五つの特別区に分割する」こと。

 →この説明も間違っている。大阪都構想は大阪市を廃止し、特別区を設置するという狭い意味の行政改革の構想ではない。大阪大都市構想と言い換えた方が分かりやすい。

「大阪都構想」は、明治以来の日本の仕組みを変える最初の具体的な提案(橋下・堺屋共著『体制維新』)だが、ねらいは「対外的に強い大阪をつくる」、「人にやさしい大阪をつくる」の2つを同時実現する大都市構想である。関西とりわけ大阪の衰退を食い止め、繁栄する大阪を創ろうとするものであり、府市合わせ(不幸しあわせ)とも言われてきた大阪2頭立て統治機構を解体再編し、司令塔を大阪都に一本化し2重行政のムダを排除し、東京に対しても世界諸大都市に対しても発信力の強い、大都市大阪をつくろうとするものである。

同時に住む人々にきめ細かで質の高いサービスを生み出せるよう、50万人前後の基礎自治体である特別区を5つ新設することで、公選首長、公選議会を有し住民参加による基礎自治が実現できる仕組みをつくろうとするものである。

大阪都構想は3つの要素、つまり①対外的に強い大阪をつくるため府と市の広域行政を大阪都庁に一本化する、②約270万という巨大な大阪市を廃止し、住民自治を強化する観点から公選区長・議会を有する5つの特別区を創設し、基礎的な行政サービスを充実する、同時に東京都などができなかった③地下鉄、水道、ごみ処理など現業部門は別法人化するなど、公共サービスの効率性、経済性を重視した「民営化」を促進する、ものである。

結果において、巨大市であった大阪市は簡素で効率的で賢い5つの基礎自治体に生まれ変わり、大阪府庁は大阪市が狭い範囲で担っていた広域行政、広域政策を引き受け、大阪府全体をにらんだ政策官庁としての大阪都庁に生まれ変わることになる。これは大阪市以外の他の42市町村にとっても、今後、権限、財源移譲など地域内分権が進むきっかけとなり、大阪全体の行政の仕組みは簡素で効率的な、税が有効利用される体制転換となる。

この改革選択は、世界に目を転じると世界の常識に合っていることが分かるはず。ニューヨーク、ロンドンなど先進国の大都市(200万を超える規模)は、総じて住民自治を担保する特別区と広域政策を担当する広域市ないし都市州の統治形態をとっている。グローバル時代の都市間競争に勝てる体勢を整え、民主主義の根幹である草の根民主主義を大事にする特別区の2層構造を大都市制度として有しているのが、近代都市の姿である。

こうした大きな背景を有する大阪都構想だが、藤井氏の都構想の理解は府と市の事務、財源、職員、財産移管などの振り分け、約束事を書き込んだ「特別区設置協定書」に記述された契約内容を大阪都構想と理解し、それに基づいて全てを説明しようとしているように見える。

この協定書は大都市地域特別区設置法で要求する法律上義務付けられた書類であり、大阪市を廃止した際、府に移管するものと特別区に移管するものを振り分ける法的契約書に止まる。ねらいを含め大都市ビジョンを構想する中での都区制度移行の手段部分を抜き出して語っているに過ぎず、大阪大都市構想の本質からずれている。大きな誤解である。

ささき・のぶお  中央大学大学院教授。1948年生まれ。早大大学院政治学研究科修了。法学博士(慶應大)。東京都庁を経て、94年から中央大教授。専門は都市行政学。地方自治論。政府の地方制度調査会委員。著書に『人口減少時代の地方創生論』『都知事』ほか多数。