論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する― 
【前編】

佐々木 信夫

 藤井聡氏の「7つの事実」は真実なのか

政党や諸団体がそれぞれ自己主張をするのは、節度を守るなら言論の自由として許されるのは当たり前である。しかし、良識を売りにする大学人の場合、専門領域はもちろんのこと、それ以外のことについて、少なくも学者を看板にしてものを言い、書く場合、正しい根拠を示すことは倫理として初歩的なことである。

残念ながら、「大阪都構想が日本を破壊する」といった激しい表現を使って反対論者としてテレビ、雑誌、著作で反対論説を述べ続けている京都大学教授の藤井聡氏の言説は、個人の研究領域に止まるならともかく、215万人の住民投票をまえに間違った統治機構、大都市制度の理解を押し付けているように見える点、行政学の専門家として、また東京都政で16年間、大都市行政に携わってきた実務経験者として看過できない。

例えば、月刊『新潮45』4月号(2015年4月、p.22)の記述にある「あまり一般に知られていないもの、投票判断には重要な意味を持つであろう、『知って欲しい7つの事実』」として挙げている「7つの事実」は、ほんとうに事実であり、真実だろうか。さらに最近は、ほかにテレビや書籍などを通じても「大阪都構想:知ってほしい7つの事実」(さらに7つの真実という話もあるが)という説明を繰り返している。

そこで主張されるスタンスは「反対論」を主張するために書かれているようにも見えるが、賛成、反対を唱えるのは個人の自由だとして、問題はそこで説明されている「事実」とは、ほんとうに事実なのか、真実なのか、その根拠は正しいものなのか。本稿ではそこを問題にしたい。

その7つの事実とは、①今回の住民投票が決まっても、「大阪都」にはならない、②今の「都構想」は、要するに「大阪市を解体して5つの特別区に分割すること、③年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」する、④流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われる、⑤特別区の人口比は、東京は「7割」、でも大阪では「たったの3割」、⑥東京23区の人々は、「東京市」がないせいで「損」をしている、⑦東京の繁栄は「都」という仕組みのせいではなく、「一極集中」の賜である、という指摘である。以下、順次これを取り上げ、争論1、争論2という項目を興しながら、行政学者の視点からチェックしていこう。

ただ、ゆっくり本稿を読んでいる暇などないという読者さんもおられるだろうから、結論を先にいうと、以下に取り上げる「7つの事実」とされている事項は、いずれも基本的な認識に誤認が多く、間違った説明、見当違いの論理構成が目立つと言うことである。かりに間違った解釈、間違った情報を社会に流布しているとすれば、それは学者として恥ずべきことであるが、それに止まらず、間違った社会操作をしてしまうことにつながる。

いま、有権者である215万大阪市民は、わが国初めて大都市制度の選択について住民投票を通じ判断を迫られている時である。もし、間違った情報を鵜呑みにし、間違った判断をされるなら、大阪にとってはもとより、東京一極集中の解決を求められる日本全体にとっても、歴史的な損失となる。 

藤井聡氏の大阪都構想を批判する「7つの事実」、当『現代ビジネス』での主張は以下を参照してください(編集部)「7つの事実」http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/「大阪都構想:隠された真実を考える~なぜ、大阪市民の税金は、市『外』に流用されるのか?」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42056「大阪構想のデメリット「市の五分割」によって行政コストが上がるというリスク」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42289