第7回ゲスト:中野香織さん (前編)
「『今日の異端は明日の正統』というシマジさんの格言には私も賛成です」

島地 勝彦 プロフィール

ココ・シャネルを知ると、20世紀のもう一つの顔が見える

日野 そもそも、中野先生はどうしてダンディズムに興味を持たれたんでしょうか?

中野 イギリスの文化研究をする機関に属していたのですが、イギリス文学や歴史の研究分野には偉大な先人が多く、現役でも世界中に研究者がたくさんいます。そこに自分が割って入る隙間はないと思って、日本ではほとんど手がつけられていなかったジェントルマン文化論を研究することにしました。ダンディズムに興味を持ったのは、自然の流れでしたね。

島地 それから、これは監訳という立場ですが、『シャネル、革命の秘密』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)もとてもよかったです。ぼくはココ・シャネルという女性に興味があって、ありとあらゆる本を読んでいますが、そのなかでもかなり上位にランクできます。事実をきちんと追いながら、でも彼女を非難していない。そこがいい。

中野 おっしゃる通りで、清濁あわせのむというか、いいところも、そうでないところも含めて客観的な視点が貫かれていて、読後感がいい本に仕上がっていると思います。

島地 ナチスのスパイだったともいわれるシャネルは、連合国のノルマンディ上陸後、逮捕・尋問されていますが、英国首相チャーチルによって解放され、スイスのローザンヌに逃げています。すごいですよね。人生は”えこひいき”ですよ。もちろん、それだけ魅力のある女性だったんでしょう。

中野 その通りですね。私が感じたのは、シャネルって「正直な人」だなということ。誰にでも分け隔てなく、ホンネで話すタイプだったから、特に権力のある男性には、他とはちょっと違う魅力的な女性に映ったんだと思います。

島地 ほんとに正直な女性ですよね。男を選ぶ基準は「美しさ」で、美しい男なら、それがナチスの将校でもペテン師でも、公爵でも貧乏人でも、身分は問わない。

中野 関係のあった男性の写真を揃えてみると、もう見事です。みんなイケメンの有名人です。どれだけ才能があっても、美しくなければ男として価値がないと思っていたのでしょう。

日野 それだけ聞くと、すごく嫌な女のような・・・。

島地 だからお前は浅いんだよ。シャネルのすごさは、まったく打算がないところにある。

中野 そう。相手が誰でも、媚びることも、上から見下すこともない。相手がお金持ちなら堂々と援助してもらうし、そうでなければ自分が援助する。というより、お金のことはほとんど関係なく、自分に忠実に、衝動的に行動しているんですね。

島地 戦後はバッシングされ、表舞台から姿を消していた時期もありますが、70歳を過ぎてからカムバックして、シャネル・スーツをつくって世界から賞賛される。あのバイタリティもすごいと思います。