サラリーマンが嵌まる甘い罠「着服」の誘惑——最初はほんの出来心だった…

伊藤忠6億円 東レ2億円 NHK6200万円……
週刊現代 プロフィール

社長の信頼もあつかった村上氏。経理書類をチェックする人は、他には誰もいなかった。着服するカネは現金で出金し、2万~3万円の架空の領収書を作って、辻褄を合わせた。いつしか合計で約100万円ものカネを着服していた。

初めはそんな深みにはまるとは思わなかった。機会があるたびに、次のボーナスで返そう、今度こそ返そうと思っていた。そうこうするうち時は過ぎ、娘もめでたく大学に合格した。

「ところが、いざやめようとすると、『せっかくこれまでバレないで来たのに、やめる必要があるのか』という思いが浮かんで消えないんです。麻薬の禁断症状っていうのも、ああいう感じなんでしょうね。歯を食いしばっても着服をやめて、返金するというふうに舵が切れなかった……」

やがて、経営改善のため、仕入れ先を見直す話が持ち上がり、書類を再確認した社長が不審に気づく。取り引きした記憶もなく、営業エリア内では聞いたこともない個人商店のような金物屋から、なぜかネジやクギを少しずつ購入していることになっていたからだ。

結局、村上氏は社長の「武士の情け」で告発されず、退職金も満額支給される形で、早期退職することとなった。

村上氏のように、ふとしたきっかけで着服の方法を思いついてしまったという人ばかりではない。初めから不正な経理を行っていて、その上でカネを懐に入れる横領犯もいる。'04年に発覚した、NHKで「紅白のドン」と呼ばれた元男性チーフプロデューサー(当時47歳)が約6200万円の横領で立件された事件は、その典型だ。

〈プール金を作らなければと思っていました〉

〈NHKでは正規に処理できない領収書などを処理するためでした〉

〈(芸能事務所などとの付き合いで)トラブルになるのもイヤでしたし、こういうことを言うのは非常にいけないのですが、自分がおカネに細かいと思われるのがイヤだったのです〉(〈〉内は裁判記録による。以下同)

検察の取り調べに元プロデューサーは、こう答えている。芸能系のプロデューサーとして豪放に振る舞いたかった虚栄心が透けて見える。そのために彼は、実在しない構成作家への原稿料や、のど自慢大会の不要なトロフィーの架空発注を使ってプール金を生み出した。

ところが、不正に生み出されたカネは結局、仕事の潤滑油ばかりに使われたわけではなかった。彼はその少なからぬ部分を、名古屋放送局勤務中に知り合った女性との不倫関係を維持するために使っていたのだ。

「まあね、『悪銭身につかず』で、着服したカネは堅実に預金しようなんて気にはならんのですわ。だいたい、急に預金が増えたら、見る人が見たら不審でしょ」

埼玉県内で清掃会社の経理部長をつとめていた平沼憲司氏(仮名・61歳)の場合、動機は初めから「遊興費」だった。小太りで赤ら顔の平沼氏は、緊張からか脂汗を拭きながら語ってくれた。