サラリーマンが嵌まる甘い罠「着服」の誘惑——最初はほんの出来心だった…

伊藤忠6億円 東レ2億円 NHK6200万円……
週刊現代 プロフィール

それで本来、支払うべきだった会社には改めて支払いをした上で、間違って支払いをしてしまった分はパソコンで適当に架空の請求書を作って、経理書類に混ぜておいたんです。直後に決算があって、書類は税理士に一式渡したけれども、何も言われなかった。幸か不幸か、バレなかった」

決算の慌ただしい作業が終わったあと、村上氏の心に悪魔が囁いた。

「『なんだ、1万円や2万円くらい、どこかに行ったって、わからないじゃないか』と思ってしまったんです。それがいけなかった……」

「着服」。辞書では「金品などをひそかに盗んで、自分のものとすること」と説明される、立派な「盗み」だ。

会社などで業務上、預かったカネを着服すれば、刑法第253条が禁じる「業務上横領」に当たる。まぎれもない犯罪である。

ところが、大企業から中小企業、官公庁まで、公のカネを私し、破滅していく人が後を絶たない。

最近では今年2月、合成繊維最大手の東レで、医療機器担当の50歳の男性社員が約2億円を横領したとして懲戒解雇されるとともに、刑事告発される事態となっている。

また、フジテレビでは昨年3月、木村拓哉と山口智子主演でヒットしたドラマ『ロングバケーション』('96年)などを担当した元プロデューサーで、ブライダル事業を行う子会社社長となっていた男性社員(当時48歳)が約1億円を横領していたとして懲戒解雇された。

こうした着服に手を染めるのは、カネを動かす裁量を持った、年齢は50歳前後からで、会社では中堅以上の地位にある社員が多い。

それは取りも直さず、彼らがその年齢までコツコツと働いて、地位を築き上げてきたということだ。にもかかわらず、会社を裏切り、クビはもちろん、逮捕さえあり得る着服の誘惑に、彼らはなぜ、勝つことができなかったのか。

冒頭の村上氏は語る。

「陳腐な言い方だけど、小遣いがほしかった。月に1万~2万円、余分に収入があったら、後輩を連れて飲みに行ったり、できるじゃないですか」

麻薬の禁断症状みたい

着服をはじめた年、村上家では長男につづき、長女が大学受験を控えていた。長男の入学金や長女の塾代はバカにならず、村上氏の小遣いはほぼゼロの状態だった。

「来年になったら、娘も大学生になって塾代はかからないし、自分でバイトもするだろう。だからおカネは、来年になったら、ちょっとずつ返せばいい。そんなふうに思っていましたね」(村上氏)