東大卒・元官僚×東大院卒・元日経記者&AV女優社会学者「『肩書き』にこだわる男・『生き様』にこだわる女」<前編> 

「日経に就職したのは肩書きをキレイにするため」
文:中央公論新社 特別編集部 吉岡宏

宇佐美 その感覚は女性ならではかもしれないなあ。「常にミステリアスな存在でありたい」という感じ?

鈴木 とにかくいろんな顔を持っていたくて。

学術寄りの堅めの顔、女っぽいふわっとした顔、バリバリに決めた華やかな顔。全部を持っていないといや。キャバ嬢仲間との会話も面白いし、記者仲間との話も面白い。もちろん大学院の仲間との話も面白いけど、ここにいる私だけ、という存在でいるより「実はあと二つくらい、顔を持っています」と常に思っていたい。

「複数の世界を持つ」というのは女、というか、特に私の処世術かもしれません。 人によってはズルイと思うかもしれないけど、記者をやっていても「記者が本職じゃないしー」と思ってました(笑)。本を書いているときには「作家じゃないし」って思ってた。

宇佐美 それはリスク分散という意味で?

鈴木 そうですね。こうしていれば、何かあっても追いつめられない。 

「ここでダメなら死ぬしか無い」というのは避けたいんです。ものを書いて暮らしている今でも、水商売や愛人家業も、必要ならばやれる自信はある。何ならAV再デビューで稼ぐ、という選択肢もあるなあ、なんてことばかり考えて生きています。

宇佐美 賢いなあ。それらの選択肢のあいだに境界線はないの?
 
鈴木 ないない。私の中では並列ですね。たとえば記者とAV女優とキャバ嬢と研究者。もちろんそれぞれは別のものだけど、ある意味では同価値です。

宇佐美 そこが鈴木さんのスゴイところだよね。

普通は「これはいいことだからOK、あれは悪いことだからダメ」とか倫理的な制約が出てきそうだけど、それを軽々と乗り越えてしまうのは、なかなかできることじゃない。あくまで自分の興味、関心に沿って並列な存在にしていると。

鈴木 それぞれで追及しなきゃならないイメージはバラバラではあるんですけど。だからまったくの一緒、というと語弊はあるんだけど、でも私の中では日経もAVもそれぞれ大変で、でも楽しかった。むしろそこの落差にひっかかる人を、笑い飛ばして生きていきたいんです(笑)。                  (中編に続く)

鈴木涼美(すずき・すずみ)    1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。日本経済新聞社に入社後、記者職な ど。2014年秋に退社。現在は文筆を中心に活動。著書に『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)。
宇佐美 典也(うさみ・のりや) 1981年、東京都生まれ。東京大学経済学部を経て経済産業省。在職中に「三十路の官僚ブログ」で自身の給料や官僚生活を公開して話題に。「世界へ飛び出せ」とあおる空気に「それより目の前のおじさん・おばさんにこそ学べ」と説いた「アンチグローバルマッチョ宣言」などがブレイクし、2012年 BLOGOS AWARD新人賞を受賞。現在Absolute Global Assets株式会社の取締役を勤めつつ、コメンテーターとしてTVへ出演するなど活動の幅を広げる。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)、『肩書き捨てたら地獄だった 挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方』(中央公論新社)。