東大卒・元官僚×東大院卒・元日経記者&AV女優社会学者「『肩書き』にこだわる男・『生き様』にこだわる女」<前編> 

「日経に就職したのは肩書きをキレイにするため」
文:中央公論新社 特別編集部 吉岡宏

「元AV女優・日経記者」って響きがとにかくダサい

宇佐美 自分はようやく今となって、そういうふうに肩書きを考えるようになったかな。

東大出身の元官僚と言っても、実は自分は「レッドオーシャン」に沈んだ敗者なんですよね。東大いったら勉強でも自分よりすごい人がいっぱいいた。官僚になったらなったで、早々と出世コースからはずれてしまった。

官僚を辞めて一人になって。「これからどうあるべきか」と考え出してから、ようやく「複数の属性を掛け合わせて、勝負相手が少ないフィールドを自ら作るしかない」ことに気付かされました。

すずき・すずみ 1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業、東京大学大学院学際情報学府修士 課程修了。専攻は社会学。日本経済新聞社に入社後、記者職など。2014年秋に退社。現在は文筆を中心に活動。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ』(幻冬舎)

鈴木 意外かもしれませんが、日経にいるときに、元AV女優ってことで騒がれる事はなかったんですよ。あとから聞いたら、社内で噂にはなってたらしいけれど。

会社を辞めて三週目くらいに「日経辞めたらしいですね。昔AVに出てたって書きますから」と週刊文春から電話がかかってきて、「いやいや、困ります」と。

そもそも記事に書くのを辞めて欲しいということもあったんだけど、「元AV女優・日経記者」って響きがとにかくダサい(笑)。

週刊誌に載ったときには、幻冬舎からエッセイ(『身体を売ったらサヨウナラ』)を出すことは決まっていたし、それで著者がAVに出てたら「まんまじゃん」ってなるじゃないですか。自分でこれからかっこいい肩書きを作っていきたかったのに……。

ただ、この経験で自分のことでもコントロールできないことがあることに気付かされました。週刊誌に書かれるのも、それはそれで運命。誰かから「あなたはこう」って評価された後、そこから「どうありたいか」ってことは、自分で考えなければならないことを実感しましたね。

だからそのあとは堅めの媒体を選んで執筆したり、なるべく私の中でダサくならないよう、意識して活動しています。

宇佐美なるほど。自分は、勝手にバズった「元AV女優・日経記者」という情報の広がりを、鈴木さんがうまく収拾していくさまに感嘆していて。放っておくと、どこまでも下劣な方向に進みそうなものを、自分でブランディングして修正する技術はスゴイと思う。

鈴木 他人がつくった流れに乗るのがとにかくいやなんです。「こういう人ですよね」と言われれば言われるほど逃げたくなる。常に「全然違いますけど」って言いたい。 「こういうのを書きますよね」と言われるのも嫌だから、社会学の次はエッセイ。で、次はまた堅い方向に戻すつもり。単純にあまのじゃくなのかもしれません。

宇佐美 自分は逆方向のアプローチ。

食えないけど、何をしていいか分からない時期から始まって。再生可能エネルギー分野でお金がもらえるようになってからは、とにかくそこに焦点をあてて書き続けました。

結果として名前やキャラクターが認知されていくうち、いつの間にか人が集まってきてくれて、ようやく仕事が軌道に乗って来た、という流れかな。

しかし鈴木さんのように自分に対する世間からのイメージをずらし続けると、積み重ねが無くなって、セルフブランドが崩れてしまわない?

鈴木 あ、抽象的なイメージですけど、私の中に中心軸はあるんですよ。軸の周辺でぐるぐる逃げ回っている感じで。本当に好きなところは変わらないけど、定まらないように動くことが重要であり。元AV女優で元日経記者、という話題を語る場面があってもいいのだけれど、そういう肩書きは出さず、メガネとスーツを着て、しれっとお堅い話もできる存在でいたい。