奥田祥子『男性漂流』より【第2回】
~「婚活」プレッシャーと「生涯未婚」ラベリングに苦悩する津村さん~

2008年、焦燥「婚活ブーム」

それから8ヵ月経った2008年の初夏、津村さんは苛立っているようだった。会うなり、眉間にしわを寄せて、「あの『婚活』ってやつ、何なんだよ。ふざけやがって!」とまくし立ててくる。春に出版されたばかりの『「婚活」時代』を読み、相当思うところがあるらしい。

この頃になって私は、彼が結婚したいのにできない、いや、本人いわく「たまたま結婚していないだけ」の自分が、世間からどう見られているのかを過剰に意識していることに気づく。

「でも、結婚に向けた相手探しの活動がしやすくなった面もあるんじゃないですか?」

相手の反応を注視しながら、恐る恐る聞いてみる。

「だから、それはモテない女がでしょ。俺までそのしわ寄せを食らって・・・」

「えっ?」

「・・・いや、何でもない」

津村さんが感情を押し殺すのを初めて目にした瞬間だった。とりあえず話題を逸らしたほうがいいと思い、互いの仕事のことなどを話したように記憶している。

そうして30分以上過ぎてから、津村さんは本音を少しずつ吐露し始めた。

「結婚情報サービスでも、最初の3、4ヵ月は申し込んでくる女性の中から選んで会ってきたんだけど・・・条件はそこそこよくても見合いをしてみると、自己主張が強かったり、あからさまに『専業主婦になって、余裕のある暮らしがしたい』なんて甘えた声で言ってきたりして・・・結局、一人も交際に進まなかった。

 そしたら、突然アドバイザーの男性から呼び出されて、『自分から申し込め』『条件を下げろ』って。今は『婚活』がブームになっていて、女性が積極的になっているんだから、とか言われて・・・。そもそもお金払って利用しているんだからこっちの勝手だ、って思ったけれど、口には出せなくて・・・。『婚活』ブームって何なんだよ。もうこわいよ」

口調も面持ちも精彩を欠いている。明らかにいつもの彼とは違う。きっと何かあったのだ。

「アドバイザーの方の意見も確かに一理あるかもしれませんけど、やはり気に入った女性じゃないとお見合いまでできませんもんね。やみくもに、申し込むわけにもいかないし・・・」

「申し込んだんだよ」

「えっ?」

「だから、むやみやたらに。この3ヵ月ぐらいは平均すると毎日2~3人は申し込んでいて、多い時は10人を超えていたこともあったかな。外見は外せないけど、年齢は35歳までに引き上げて・・・家ではうまいもん食わしてもらいたいから趣味に『料理』は必須だったんだけど、それも目をつぶった。

 でも・・・それでも・・・見合いまで行ったのはたったの1人だけ。会ってみたらがっかりだった。もう女性不信になったよ。ほんとに疲れた」

当時46歳になっていた津村さんの条件は、一部妥協したとはいえ、まだ高過ぎると思った。が、かなり気落ちしている様子の彼に、掛ける言葉が見つからなかった。