奥田祥子『男性漂流』より【第2回】
~「婚活」プレッシャーと「生涯未婚」ラベリングに苦悩する津村さん~

『男性漂流』
著者= 奥田祥子
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津村さんは開口一番、自身の能力不足として取材が展開されないよう、釘を刺してくる。

「だって、自分から女性にアタックするのは、面倒でしょ。もし、相手が珍しく俺に興味がなかったりしたら、また一からほかのに当たらないといけないし・・・。だから、合コンとかパーティーとか、独身女性が集まる場所に頻繁に出かけて行って、相手から声を掛けてくるのを待つ。それで寄ってきたのから選ぶ。

でも一度デートしてみると、もしかしたら『白雪姫』かも、って期待していたのが、実は『鏡の女王』(自分が世界で一番美しいと思い、白雪姫をいじめる継母=グリム童話『白雪姫』より)だったりしてね」

分類した残りの2タイプの男性の特徴でもある、女性に対して積極的に動くのが、「苦手」「傷つくのが嫌」という発言は、一切口にしない。「白馬の王子様」を求めている女性のように、「白雪姫」を待っている男性もいるのか---。津村さんの言葉に感化され、このタイプのネーミングが浮かんだのである。

2007年の激震、動きだす

津村さんとは出会ってから数ヵ月に一回、連絡を取り合い、時に会って話をしたりもしていたのだが、依然として理想の女性を待つ姿勢は変わらなかった。だが、彼から何気なしに受けた一本の電話で私は即、取材を申し込むことになる。2007年の秋のことだ。

「最近、結婚情報サービスに入会したんだ。あっ、誤解しないで。『場』を広げただけだから。それに、古くさい、あのおばさんがやっている結婚相談所とは違うからね」

会ったのは、連絡をもらってから1ヵ月余り過ぎた頃。約3年ぶりに見る津村さんは相変わらず高級ブランド服に身を包み、外見に気を配っていた。やや前髪が薄くなった気もしたが、45歳にしては若々しく、はつらつとした印象を受けた。

入会したのはインターネットを介した結婚情報サービスで、会員の年収や職業、趣味、家族構成、自己PRなど様々な情報と写真をネット上に公開。各項目に相手の希望(例えば女性だと「年収600万円以上」など)を入力して検索でき、男女双方から申し込んで相手が承諾すれば「お見合い」、さらに「交際」、3ヵ月後に「正式交際」に進むかを判断する---しくみだ。

年間費用20万~30万円が主流の大手事業者に比べ、入会金が約5万円に、月会費と一回ごとの見合い費用がそれぞれ5千円程度と、比較的抑えた価格設定になっている。一方で、いわゆる出会い系サイトとは異なり、独身証明書のほか、男性には源泉徴収票など年収を示す書類の提出が義務付けられている。

まず知りたかったのが、この3年余りの間にどんな心境の変化があったのか。

「別に俺に変わったことがあるわけじゃないよ。金払ってサービスを利用するほうが合理的かと思ってね。合コンやパーティーは幹事に気を遣ったり、次にあるまで時間が空いたりするし、このサービスだといつでも・・・女性からだって申し込みやすいし・・・」

「合理的」というのは、津村さんらしい考え方だ。ただ、よくよく聞いてみると、どうも40歳代半ばになり、友人の紹介による合コンなどの機会が減ったのも背景にはあるようだった。いずれにしても、待つ一方だった彼が自ら動き始めたことに、私は激しく心揺さぶられた。

結婚情報サービスに入会してから1ヵ月後のこの時期、津村さんは余裕たっぷりだった。社会で活躍するようになり、女性が強くなった、変わったと言われて久しいが、結婚相手となる男性に求める条件では、年収や学歴、職業といった旧来の項目が実は今も幅を利かせている。もちろん優しさや思いやりなど会って交際してみないと分からないことも重視される点だが、ネットを介した見合いの申し込みの段階では、前者しか判断材料がない。案の定、出足は好調のようで、

「入会して俺の情報がネットにアップされた直後から20件もの申し込みがあってね。一週間以内に見合いするかどうか返事しなきゃいけないんだけど、大変だよ。はっ、はっ・・・」

ただ少し気になったのは、彼は入会してからこの間、自分から一人も女性に申し込んでいない、ということだった。