奥田祥子『男性漂流』より【第2回】
~「婚活」プレッシャーと「生涯未婚」ラベリングに苦悩する津村さん~

ところが、である。2008年3月に『「婚活」時代』(山田昌弘、白河桃子著、ディスカヴァー携書)が刊行されたのを契機に、テーマの主眼は、結婚という目標に向かって自分から行動を起こさなければならない、そしてゴールに到達するにはどのように活動すればよいか、という点に一気に傾倒していく。私はここが、社会が未婚者に結婚への精神的重圧を与え始めた起点だと考える。

著者たちの見解を批判するつもりはない。独身男女の意識を変えて結婚をバックアップしようという意図が、メディアによるセンセーショナルな報道もあって、受け手に届く段階で、「婚活」という言葉・概念そのものが「ただやみくもに、結婚に向けて活動しなければならない」などと拡大解釈・誤読されてしまった感もある。「婚活」が大衆の関心を集めたことで、「『婚活』していない者はやる気がない」といった偏見まで生み出すことになるのだ。

今や、地方自治体が独身者向けに「合コン」を主催し、その事業に国が補助金を出す時代だ。公的なお墨付きを得て、"国民総婚活"に立ち上がれ! と国中が踊らされているのではないか、という危機感さえ抱いてしまう。

結婚を後押しする一方で、国は「生涯未婚率」(50歳時点で1度も結婚したことのない人の割合)を弾き出し、中年未婚者に「生涯未婚」の烙印を押している。「生涯未婚率は、もともと出生率との関連でライフスタイルを分析するための人口学的指標で、国際比較する際にも有用」(国立社会保障・人口問題研究所)というが、ある年齢時点での未婚者にこのような名称を付与し、分類するのはいかがなものか。

「生涯未婚率」の算出方法は、5歳刻みの国勢調査の未婚率から、45~49歳と50~54歳を平均したもの。「生涯未婚」としてではなく、あくまでも、結婚したいのにできない中年男性の実態を把握するためのひとつの数値として、紹介しておきたい。2010年の調査では男性は20.1%で、この30年間で8倍近くに激増した。女性は10.6%で同期間に2倍強と、伸び率だけをみても男性の増加が著しい。

「婚活」プレッシャーや「生涯未婚」ラベリングに苦悩しながらも、男たちはどのようにして一条の光を見出していったのか---。

2004年の「白雪姫求め男」

津村勇太郎さん(仮名)と最初に会ったのは、2004年の夏。当時、私は独自に「結婚できない男たち」を3つのタイプ(「モテない系」「ビビリー系」「白雪姫求め系」)に分類していたのだが、彼はこの時点では、理想が高すぎ、自身が求める女性が現れてアプローチしてくるのをただひたすら待っている典型的な「白雪姫求め系」の男性だった。

知り合いのつてを頼りに探し当て、半年余りの交渉の末に取材を承諾してもらい、ようやく目の前に姿を見せた津村さんは当時、42歳。身長は170センチ台半ばでがっしりとした体格。彫りの深い顔など外見も良く、高級感漂うピンクのシルクシャツに、イタリアブランドものの紺色スラックスを着こなしていた。

週末の昼下がり、東京・表参道のオープンカフェに、待ち合わせ時刻から30分近く遅れてきたにもかかわらず、悪びれる様子もなく、「やあ、どうも」と顔の筋肉すべてを駆使したような笑顔で言って、席に着く。プライベートなら蹴りのひとつも入れてやりたいところだが、「とても面白い」。まるで獲物を見つけた獣のように、記者の血が騒いだのを鮮明に覚えている。

事前に入手していた情報によると、津村さんは東京の私立難関大学を卒業後、商社に入社して、30歳代後半で課長職に就き、年収は軽く1千万円を超える。渋谷区内の分譲マンションで一人暮らしをしていた。相手を探している独身女性なら、まず飛びつくこと間違いなし。結婚市場ではまさに"特上物件"だろう。そのことを誰よりも、自身が一番分かっているようだった。

「津村さんのような方がなぜ結婚されていないのか。自分から積極的に女性にアプローチされないのか。そこから独身男性の心理や社会の深層に迫りたいというのが狙いでして・・・」

「まず分かっておいてほしいのは、俺は結婚『できない』んじゃなくて、今のところいい女がいなくて、たまたま結婚『していない』だけだから」