奥田祥子『男性漂流』より【第1回】
~中年男性たちはいま、何におびえて漂流しているのか~

奥田 祥子 プロフィール

週刊誌での取材をきっかけに、一ジャーナリストとして独自に活動を始め、男性の晩婚・非婚化や更年期障害、職場の問題や夫婦・親子関係をテーマに書き下ろしたのが、初の著作となる前著の『男はつらいらしい』(新潮新書)だ。新書の中心読者とされる男性のつらさに焦点を当てたテーマの本を、果たして男たちが手に取ってくれるのか多少の懸念もあったが、蓋を開けてみると大きな反響を呼んだ。

男性読者からは共感や苦笑交じりの感想とともに、「女に何が分かるんだ!」とお叱りの言葉もいただいた。それに、「男性の気持ちが少しは理解できたような気がした」などと、女性にも読んでもらえたのは想定外の喜びだった。

希望に胸膨らませ、その後も取材を続けた。ところが前著の出版から1年余り経った2008年末、経営合理化策の一環として、販売部数が低迷していた週刊誌が休刊に追い込まれる。所属部門のリストラに遭ってしまうのだ。新聞社の記者として、自身のライフワークとしていたテーマを取材し、記事として発表する場を失った心痛から、丸1年間は個人のジャーナリストとしての活動を再開することができなかった。

さらにその数年後には、たった一人の肉親である母親が心臓病など内臓疾患を発症し、体力の低下とともに介護が必要な状態になった。結婚したくてもできていないのは不徳の致すところだが、取材の主題であるリストラや親の介護を自分も経験したことで、中年期を生きているという共通項だけでなく、職業人として、家族介護者として、男たちの苦しみにより近づき、共感し、彼らから受け止める言葉の重みが増していったように思う。

本書の最大の特徴は、一人ひとりの男性について数年から10年の長期間にわたって取材を続けてきたこと、つまり定点観測ルポになっているという点だ。10年余りの間に協力してくださった方々は優に200人を超えるが、その半数は一回のインタビューで終わることなく、何度も取材を重ねて追跡した。

時間の経過とともに取材対象者は壮年から中年になり、抱える問題も深刻化していく。時の流れの中で彼らの意識や言動が変化していく様を、つぶさに捉えることができた。男たちの懊悩に寄り添い、社会の矛盾を糾弾したいという思いから取材を始め、今もその気持ちは変わらないが、己の身に降りかかった予想だにしなかった出来事に戸惑い、煩悶しながら取材を続ける過程で、彼らに励まされ、救われる場面も少なくなかった。

現代社会において、中年男性は漂流しているように見える。そして、男であるがゆえに、様々な問題に脅え、世間の目を著しくこわがっていた---。

本書に登場するのは、どこにでもいる市井の人々だ。事の善悪や成否など簡単には割り切れない幾多の問題にもだえ苦しみながらも、何とか活路を切り開こうと必死に努めている等身大の男たちを描いている。そうして、その何気ない日常には、衝撃的な事実が潜んでいた。

「婚活」プレッシャーに苛まれた末、ある「事件」を起こしてしまった者もいれば、占い依存に陥ってしまった者もいる。"仮面イクメン"を演じていた背景には、意外な真実が隠されていた。

ほかにも、虐待、自殺未遂、精神疾患・・・と、各章立てのタイトルからはとても想像できない出来事に私自身、全身に悪寒が走り、電流を流されたかのように身体が震え出し、果てには大粒の涙を流してしまった時さえあった。また、妻の本音や女性の正体が少しずつ明らかになってくることに、背中がゾクッとしたこともままあった。

中年男性が苦悩の淵に追い込まれている数々の問題の中から、本書では、「結婚」「育児」「介護」「老い」「仕事」という5つのテーマを取り上げる。多くがいまだ暗闇から抜け出せずにもがいているのが実情ではあるが、あえて自らの意志と努力で希望の光を見出した男たちの生き様を中心に紹介することにした。

ミドルエイジクライシスを乗り越えるヒントを、受け取っていただければ幸いである。

男性漂流』P3~7より抜粋

奥田祥子 (おくだ・しょうこ)
ジャーナリスト。1966年、京都市生まれ。1994年、米・ニューヨーク大学文理大学院修士課程(メディア論、社会心理学専攻)修了後、新聞社入社。男女の生き方や医療・福祉、家族、労働問題などをテーマに、全国を回って市井の人々を中心に取材を続けている。所属部のリストラを契機に、本格的に独自の活動を始めた。自治体主催のシンポジウムでの講演のほか、「Media Influence Over the Transformation of Stigma Toward Depression in Japan」(米学術誌「Sociology Study」に掲載)等の論文も発表。著書には『男はつらいらしい』(新潮新書)、共訳書には『ジャーナリズム用語辞典』(国書刊行会)がある。独身で、唯一の肉親である母親を介護している。


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