名探偵・御手洗潔、初の映像化記念 島田荘司×玉木宏スペシャル対談 ---フジテレビ土曜プレミアム『天才探偵ミタライ~難解事件ファイル「傘を折る女」~』3月7日放送決定!

このシーンの収録は全体の撮影スケジュールの比較的序盤にあったんですね。これが大きかったです。もし収録が後半に予定されていたら、悩んでいる期間がもっと長くなったと思います。

島田 冒頭のシーンというと、私も脚本に少し関わっているので玉木さんには謝らなければいけない。長台詞が多くて嫌だったでしょう。私はそれで窮屈に感じられたのかと思いました(笑)。ちょっと素人めいた質問になりますが、ああいう長い台詞というのは、完璧に覚えているものなのですか? 

玉木 基本的に本番のときは覚えています。役者によってスタンスは違うのでしょうけど、僕は常に台本に触れていないと不安に感じるほうなので、ちょっと気になることがあるとこまめに開いて確認します。それを本番直前まで繰り返しますね。撮影スケジュールを見れば、いつに何のシーンを撮るのかは事前にわかるので、そのシーンに合わせた準備をするのですが、今回は最低三日前から準備しておかないと自分の中で御手洗という人物がなかなか整理できませんでした。ドラマによっては前日から準備に取り掛かっても大丈夫なこともありますが、その点でも今までにない役柄でしたね。

島田 物語中のミステリー現象というものは、偶然や必然の事象が、複雑に絡み合って成立し、出現します。その構造を、齟齬なく解いて語るとなると、どうしても台詞が長くなってしまうんですね。ナレーションが入る構成ではないので、御手洗の台詞のみで全体構造を解明しなくてはなりません。だって、解っているのは彼だけなんですから。御手洗潔は、謎解きはしなくてはいけないし、特に後半、解決を含めて物語のほぼすべてを一人で背負って引っ張っていかなくてはならない。皆の頭は五里霧中で、犯人に会えるのも御手洗だけ。物語全体がみるみる御手洗一人に依存していくんです。これは責任が重くて、たいへんだったろうなと思います。

玉木 でも、天才という役ですから、演じていて気持ちよかったです(笑)。

島田 天才というと、ちょうどコンピュータみたいに、機械に似て無感動人間、というふうに考えやすいです。でも天才というのは、言葉や数字、抽象的な映像など、膨大なイメージが天啓の雨として脳に降り注いでいて、渦を巻いている人間だと思うんです。その量が多すぎて整理が追いつかず、翻弄されて態度が不安定になります。だから、じつは一般人よりむしろ喜怒哀楽が激しかったりもして、周囲が振り廻される。彼の興奮の理由が常人には解らないですから。

玉木 ああ、なるほど、やはりそうなのですね。僕も御手洗は、感情こそ面に出ないけれど、その内には熱い思いを秘めた、むしろ激情型の人物なのではないかと、漠然と感じていました。御手洗を創り上げた島田先生の「天才論」を伺うと、演出・脚本に携わった方々がひとつひとつのシーンを非常によく練り上げていたのだな、と改めて思いますね。

島田 本当にうまい演出でしたよ。私が最も印象に残った映像は、この「天才」を表現したシーンです。文字群が書棚から浮き出てきて、目を閉じた御手洗の周囲を、もの凄い勢いでぐるぐる回るCG映像。天才の脳の中の嵐が、見事に表現された動画。あれこそは技術屋さんの真骨頂ともいうべきシーンですね。私は欧米を一歩リードしたとさえ感じたし、性格が常人離れした御手洗でなくては、もしかしたらあの映像は馴染まなかったかもしれない。その意味で少し誇りを感じたし、玉木さんやスタッフに、もっとも感謝したシーンです。

玉木 制作スタッフは、これまでにもご一緒させていただいたことがある方たちだったのですが、冒頭で長回しのシーンを入れたことも含めて、既存の表現にとらわれないというか、常に新しいものを目指しているようなところがあります。そんなスタッフと一緒に仕事ができたことは幸せなことだったと思いますし、嬉しかったですね。