ロシアと国際テロ組織の本格戦争が始まった

佐藤 優 プロフィール

 チホミロフは北コーカサス(ダゲスタン、チェチェン、イングーシなど)にロシア中央政府の実効支配が及ばないようにし、そこにイスラーム国家を建設する。チホミロフをはじめとするイスラーム主義者は、国民国家を認めない。

 アッラー(神)が一つなのに対応して、この世界も一人の皇帝(カリフ)が指導する単一のイスラーム帝国(カリフ帝国)によって統治されるべきであるとする。かつてタリバーンは、アフガニスタンを世界イスラーム革命の根拠地にしようとしたが、それと同じことを北コーカサスの過激派も考えている。

 当然、アルカイダなどの国際テロ組織とのネットワークをもっている。

 3月30日付ロシア国防省機関紙「赤い星」は、一面にクレムリンの会議室で起立して、自爆テロの犠牲者に対して追悼するメドベージェフ大統領らの写真を掲載し、その横に「動揺せずに、最後まで!(テロリストを殲滅せよ)」という見出しを掲げている。

 現在、ロシアの新聞のほとんは株式会社によって発行される商業紙だが、「赤星」だけは国防省機関紙だ。同紙に掲載される記事はすべて国防省の公式見解を示す。従って、事件報道に関しても慎重な記述になる。「赤星」が今回のような煽動的な見出しを掲げることは異例だ。

 さらに「赤星」には、3月29日にクラスノヤルスクに国内出張中プーチン首相が、テレビ会議で「治安機関が犯罪者を見つけだし、処断し、テロリストは殲滅されることになると私は確信している」と述べたと報じている。平たい言葉に言い換えると、「テロリストを見つけしだい殺せ」ということだ。

 今後、北コーカサスでロシア当局がかなり乱暴な掃討作戦を展開することになる。もちろん国際テロ組織も反撃を加える。治安出動の域を超えた本格的な戦争が始まろうとしている。当面、警戒しなくてはならないのは、5月9日にロシア全国で計画されている対独戦勝65周年式典だ。

 メドベージェフ大統領、プーチン首相は、モスクワの中央式典に対する自爆テロだけは、ロシア国家の威信に賭けて何としても阻止しようと考えている。そのためにFSB(秘密警察)にかなりの裁量権が与えられていると筆者は見ている。テロとの戦いを口実にロシア社会が急速に閉塞感を強めている。(2010年4月6日脱稿)

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著者:佐藤優
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