佐藤義則(ソフトバンク投手コーチ)「勝てない投手を勝たせるのが、私の仕事」 二宮清純レポート ダルビッシュ有、田中将大を育てた「優勝請負人」が明かす

週刊現代 プロフィール

ブルペンで田中が投球練習を始めると、佐藤は背中側に立った。ヒザが割れると、体の開きが早くなる。それを矯正するための練習法だった。

楽天で5年間、一軍投手コーチとして佐藤とコンビを組んだ森山良二は、この練習の効能を次のように説明する。

「佐藤さんはピッチャーの背中が当たりそうな位置に立つんです。体の開きが早いと邪魔になってしまう。僕もキャンプ中、田中に頼まれて背中の後ろに立ったことがあります。

佐藤さんの教えは明解です。バックスイングを小さくし、早めにトップをつくる—。腕が後ろに入り過ぎたり、アーム式だとどうしてもトップをつくるのが遅れる。そうなると肩まわりに負担がかかってしまうんです。

よく佐藤さんは〝抜いて抜いて100(%)〟と言っていました。要するに無駄な力を省き、リリースの瞬間に力を爆発させろと。トップを早くつくり、ヒジから先を走らせる。これを徹底していましたね」

ダルビッシュや田中との出会いを、佐藤は「ただ運が良かっただけ」と謙遜する。だが、ダルビッシュが田中に「ヨシさんの言うことだけは聞いといた方がいい」とアドバイスしたのは、この世界では有名な話である。

こうした信頼は一朝一夕に得られるものではない。

「コーチは選手を悩ませてはいけない」

それが佐藤の指導哲学である。

「選手にはよく言いますよ。〝投げるのはオレじゃねぇ、オマエらだ〟と。だから一応アドバイスはするけど、押し付けるつもりはないんです。

選手に〝今のどう?〟と聞いて〝違和感ありません〟という言葉が返ってくれば、〝じゃあ、続けよう〟となる。〝タイミングが合いません〟と言われたら、他の方法を考えればいいんです。

ああしろ、こうしろと手取り足取り教えたところでうまくなるわけがない。だから、選手にはハッキリ言います。〝(オレの教えに)納得していないんだったら言ってくれ。『(上から)言われたから、やっています』というのが、オレは一番嫌なんだ〟と……」

そもそもコーチの仕事とは何か。一説によるとコーチの語源は馬車に由来する。大切な人や物を目的地に送り届ける—。問われるのは、その方法論である。

私見だが、指導者が成功する上で大切なのは「哲学」と「鉄則」である。「選手を悩ませない」。つまりプレーヤーズ・ファーストが佐藤の哲学なら、鉄則は以下のようなものになる。