宇野亞喜良 第3回
「ぼくは中学生のころから親父のアシスタントとして室内装飾の仕事を手伝っていました」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ 親父はまたなかなかのアスリートで、運動はなんでも上手かったんですが、わたしはそのDNAをまったく受け継がず、完全なる運動オンチでした。宇野さんはちゃんとお父さんの絵心を継いでいらっしゃる。

宇野 でも親父は絵では喰えなかったですからね。ぼくは戦争中、集団疎開先からよく家にハガキを出していたんですが、おやつに出た落花生や当時の主食だった芋なんかをスケッチして送っていました。

シマジ きっと宇野さんのお父さんは、ピカソの父親が自分の息子が天才だと知って絵をやめてしまったのと同じような心境だったんじゃないですか。

宇野 それほどではないでしょうけど、ぼくを仕事のアシスタントに使ってくれたんですから、少しは認めていたのかもしれません。

シマジ そういえば、うちの親父は寒風吹きすさぶ冬でも一関を流れる磐井川にハヤの一種のアカハラを釣りに行っていました。そのアカハラを母親がフライにして食卓に出してくれるんですが、それはもう絶品でした。イカリソースが抜群に合うんです。

立木 そのころ東北にイカリソースなんかあったのか? あれは関西にしかなかったんじゃないの。

シマジ 大阪の知り合いから送ってもらっていたんですよ。佐賀出身の祖母も同居していまして、「ガンヅケ」という塩よりも塩っ辛い蟹の塩漬けを佐賀から送ってもらい、よく熱いご飯にかけて食べていました。

宇野 シマジさんは疎開先が食べ物の豊富なところでよかったですね。

立木 だからこんな贅沢な男になったんですよ。

シマジ 旬の食材や手をかけた料理など、美味いもので食欲が満たされるのは人生でいちばん大事なことだと思います。そうすると自然とこころも豊かになるものです。

立木 開高健さんは子供のとき学校の先生だったお父さんが急死して美味しいものに飢えていた。その反動で後年はグルメというよりグルマン(大食い)になり、あんなに太ってしまった。そう考えると、シマジは子供のころから幸せ者だったんだな。

シマジ 住むところは長屋だったんですが、確かに、食べることにはもの凄く貪欲でしたし、恵まれてもいましたね。

次回につづく〉

 

宇野亞喜良(うの・あきら) 1934年愛知県名古屋市生まれ。名古屋市立工芸高校図案科卒業。カルピス食品工業の広告課を経て、1960年日本デザインセンター設立とともに入社。1964年同センターを退社し、横尾忠則、原田維夫とともにスタジオ・イルフィル設立。翌65年離脱。同年スタジオReを設立し、「ペルソナ展」に参加。また、灘本唯人、横尾忠則、和田誠らと東京イラストレーターズ・クラブを設立し、寺山修司の「天井桟敷」にポスターを制作する。1968年スタジオReを解散しフリーに。日宣美会員賞、講談社出版文化賞さしえ賞、サンリオ美術賞、赤い鳥挿絵賞、日本絵本賞、日本宣伝賞山名賞等を受賞。1999年紫綬褒章、2010年旭日小綬章受章。おもな作品に「宇野亞喜良クロニクル」「サロメ」「少女からの手紙」「奥の横道」「MONO AQUIRAX +」、絵本に「あのこ」(文=今江祥智)「白猫亭」「上海異人娼館」(原作=寺山修二)、詩画集「大きなひとみ」(詩=谷川俊太郎)など。その他、キュレーションや舞台美術も手掛ける。
島地勝彦 (しまじ・かつひこ) 1941年東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。現在は、コラムニスト兼バーマンとして活躍中。『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ やっぱり男は死ぬまでロマンティックな愚か者』(いずれも講談社)『Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である』(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。Webで「乗り移り人生相談」「Treatment & Grooming At Shimaji Salon」「Nespresso Break Time @Cafe de Shimaji」を連載中。最新刊『お洒落極道』(小学館)が好評発売中!

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