そのなかで私の印象に残ったのは、サイバーセキュリティ問題です。
私の専門分野でもあり危機感は強いのですが、サイバーセキュリティ関連のセッションが例年よりかなり多くなっていたことには正直驚きました。さまざまな専門家が多くの角度からサイバーセキュリティについて議論していました。
これまではどこか「まだ先のこと」「人ごと」ととらえる人が多かったのですが、2013年の終わりから2014年に起こった事件によって、人々の意識が大きく変わったことを実感しました。
2013年11月の「ブラックフライデー」(感謝祭翌日の金曜日)の週末、アメリカの小売チェーン大手「ターゲット」(全米5位)で顧客のクレジットカードとデビットカードの情報が盗まれる事件が発生し、2014年5月にはCEOが解任されました。
理由は、ハッカーによる攻撃で膨大な顧客の個人情報が流出して巨額の損失を出したことと、情報開示が遅れたこと。サイバーセキュリティを怠れば、トップがクビになるというはじめての事件でした。
また、サイバーセキュリティに450億円もの年間予算をかける証券会社「JPモルガン」も2014年8月、サイバー攻撃の被害にあいました。これだけお金をかけても、防ぐのは難しいのです。
「世の中には、ハックされたことに気付いている会社と、気付いていない会社の2種類しかない」
私は改めて、このことを痛感しました。
さらに2014年末には、「ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)」のネットワークがサイバー攻撃を受け、Twitterアカウントの乗っ取りや情報流出などの被害が発生しました。これによってレピュテーション(評判、評価)がズタズタになりました。
この際、フリースピーチ(おしゃべり)が狙われたことで、新しい危機感が生まれました。これまでは、お金やパスワード、カード情報が盗まれることが重大視されてきましたが、「奪われるのはそれだけではない」と多くの人が知りました。会社の信用や評判、自由な発言ができる空間も狙われているのです。
サイバーセキュリティ問題によって、企業のトップがクビになり、会社の信用が落ち、国際問題が起こり、フリースピーチまで脅かされる。これらが明らかになったことで、サイバーセキュリティが今回の注目テーマになったのです。
もちろん、ユーロ+ギリシャ、スイスフランの問題、フランスのテロの影響も議論されましたが、サイバーセキュリティ関連の多くのセッションがにぎわい、出席者の関心の高さがはっきりとわかりました。