[裏方NAVI]
岩田雄樹(トレーナー)<前編>「小川泰弘の強さは“精神”にあり」

スポーツコミュニケーションズ

小川にある“頑固さ”と“柔軟さ”

 小川と出会って6年。この間、岩田は小川の強さを目の当たりにし続けてきた。小川の強さには2つの側面があると岩田は言う。ひとつはこれをやると決めたら必ずやり抜く“頑固さ”。そして、もうひとつは“柔軟さ”だという。岩田にとって、最も印象的だったのは、今や小川の代名詞とも言える「ノーラン・ライアン」のフォームに変えたことだった。

 きっかけは、小川が大学3年春のリーグ開幕戦、東京国際大学戦で打たれたソロホームランにあった。結局、その1本が決勝点となり、創価大は0-1で敗れた。
「チームはみんな、エースの小川が打たれたんだから仕方ない、くらいだったんです。でも、本人は相当ショックだったようで、『このままではダメだ。何かを変えなければ』と思ったようですね」

 そんなある日のことだ。治療中、小川は岩田にこう語りかけてきたという。
「岩田さん、フォームを変えようと思っているんです」
 その時、小川が読んでいると言っていたのが、ノーラン・ライアンの『ピッチャーズ・バイブル』だった。
「普通、フォームを変えると言っても、腕の角度を変えるとか、足の使い方を変えるとか、その程度だと思うじゃないですか。その時の僕は、小川もそうだろうと思っていたんです。だから『自分がいいと思うんだったら、やってみた方がいいよ』と答えました。『ピッチャーズ・バイブル』も、何かヒントになることがあるのかもしれないな、くらいにしか考えていなかったんです。そしたら、あのフォームでしょ。ビックリしましたよ(笑)」

 後日、トレーナー室でシャドーピッチングをする小川を見て、岩田は目の前の光景に目を丸くした。小川はそれまでとはまったく違うフォームになっていたのだ。
「いやぁ、ビックリしましたよ。まさか、ノーラン・ライアンのようなフォームにするとは……。思わず小川に『どうしたの?』って聞いたんです。そしたらいつも通りクールな表情で『これがしっくりくるんです』と……。でも実際、それからの小川の活躍はすごかったですからね。普通は、ほんの少し変えるのにも勇気が要るというのに、小川はあれだけ大胆に変えられるんですからね。それだけ柔軟な考えをもっているからなんだと思います」

 もちろん、小川だからこそ可能とも言える大改造だった。
「小川の筋肉は本来は柔らかいのですが、固まりやすいという性質をもっています。そのため、シーズン中は硬くなってしまう。ただ、股関節は非常に柔らかいんです。だから、あれだけ足を上げることができるんですよ。それと、下半身の強さですね。もともと1年の頃から下半身は鍛えられていて、太かったんです。大胆なフォームでも、軸がブレないのは、強靭な下半身があればこそ。とはいえ、あのフォームを繰り返しやっていくと、やはり負担は大きい。だから、あのフォームにしてからは、より下半身強化やストレッチに力を入れるようになりましたよ」

 大胆に変える勇気と柔軟さ、そして一度決めたことをやり通す頑固さ――。この対照的な2つの要素が小川にはある。それが彼を成長させてきたのだ。

(後編につづく)

岩田雄樹(いわた・ゆうき)
1979年6月19日、新潟県生まれ。東京学館新潟高校卒業後、社会人野球チームに所属するも、ヒジを故障し、20歳で現役を引退する。22歳からトレーナーの道を歩み始める。指やヒジで筋肉の裏側までもみほぐす即効性の高いマッサージで、選手のコンディションづくりに寄与している。2005年より創価大学野球部の専属トレーナを務める。また、都内に「神指一門」の店舗をかまえ、多くのプロ野球選手の治療にあたっている。

(斎藤寿子)