ヒノ なにかで読んだんですけど、宇野さんは60年代後半に寺山修司の舞台の美術をやっていたころよりも、いまのほうが芝居に入り込んで愉しめるようになったそうですね。
宇野 ええ、そうなんです。寺山修司はもういないし、ぼくが細かい部分をいじっても誰にも文句を言われないですからね。
最初、寺山が天井桟敷を作るとき、横尾ちゃんを美術のメンバーにして旗揚げしたんですね。ぼくだと前衛的というより少女趣味になっちゃうからっていって入れてくれなかったんですよ。でもだんだんいろんな才能と仕事をするようになっていって、ぼくも演劇に加えてくれたんです。
寺山は「星の王子さま」みたいなセンチメンタルな作品を作るわけですが、ぼくは彼が少女も好きでサンテグジュペリも好きだとわかっているから、いま構成や美術をやるときにそういう視点を持ち込めるんです。「フォア・レディース」シリーズで寺山の抒情的なところも最初から知っていましたしね。
だからぼくはアングラ的なものと抒情的なものの両面を芝居に反映させる。ときには寺山の解釈を崩すこともある。そういう崩す役割が与えられているというところが愉しいですね。
シマジ なるほどねえ。
宇野 タッチャンもアングラ的なものより抒情的な部分で付き合っていたでしょう? 寺山はタッチャンに撮ってもらうと都会的に見えると考えていたんじゃないですか。
立木 なにを言っても「YES」としか言わないやつを選んだだけじゃないですかね。反抗するヤツは一回でダメでしょう。おれは寺山の映画にも出演していたんだけど、なにを言っているのか全然わからなくって困ったのを覚えていますね。寺山と矢崎泰久とおれの3人で金を持ち寄ってやろうとしたんだけど、編集がぜんぜん進まなくて、結局完成しなかった。
宇野 それは天井桟敷より前の話だよね。
立木 昭和34年か35年だったかな。まだ20代でオレも何もわからなかったしね。寺山もその頃は田舎から出てきたばかりの風体でした。「仕事があってTBSまで行かなきゃいけないから一緒に行こうよ」と言われて付いて行ったりもしたんですけど、おれもあのころは怖いもの知らずで生意気だったから、テレビドラマのシーンを撮っているのを横から見て撮り方を指示しちゃったり・・・。
むかしのことを思い出すとどうも酒が飲みたくたってきた。シマジ、一杯作ってくれる。
シマジ もちろん、お安いご用です。
ヒノ それではネスプレッソをチェイサーにしてお飲みください。
立木 たしか先月もこの方法で飲んだんじゃなかったかな。
〈次回につづく〉
著者: 島地勝彦
『お洒落極道』
(小学館、税込み1,620円)
30代、40代の男性を中心に熱狂的ファンを抱える作家、島地勝彦氏の『MEN’S Precious』誌上での連載「お洒落極道」が、待望の書籍化!
amazonはこちらをご覧ください。
楽天ブックスはこちらをご覧ください。
著者: 島地勝彦
『Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である』
(阪急コミュニケーションズ、税込み2,160円)
「サロン・ド・シマジ」マスターである島地勝彦が、シングルモルトにまつわる逸話を縦横無尽に語り尽くす雑誌『Pen』の人気連載を書籍化
amazonはこちらをご覧ください。
楽天ブックスはこちらをご覧ください。