漫画家・安野モヨコの原画、ホノルル美術館へ ~作品の新たな「文脈」を求めて

寺田 悠馬 プロフィール
ホノルル美術館のホームページより

美術史を構築する"乱暴"な批評眼

「モダンラブ: 20世紀日本のエロティックアート展」は、ホノルル美術館が2012年に始めた、日本の春画に関する展示三部作の最終章にあたる。17~18世紀の作品を集めた「閨房の芸術: 日本の春画展」(2012年)、19世紀に焦点をあてた「笑い絵: 19世紀日本の春画展」(2013年)に続く「モダンラブ」(2014年)で、キュレーター両氏が描いたストーリーを、私なりに読み解くとこうなる。

「文明開化政策の一端として、1872年に東京府が発行した違式詿違条例などにより、いわゆる春画の制作と売買は停滞した。しかし20世紀以降も、それまでは春画という形で表現されていた描写の多くは、姿形を変えて、日本美術のなかに脈々と生き続けている」

このテーマ(正確には私が解釈したテーマ)を物語る材料として、「モダンラブ」では、まずは橋口五葉の版画を、そして荒木経惟氏の写真を、さらには、安野モヨコの漫画原画を展示している。参加している美術家のうちこの3名だけをとっても、その作品が肩を並べて同じギャラリーに展示されるのは、日本ではまず考えられない。だがこの一見「乱暴」な編成こそが、キュレーターが独自の批評眼に基づいて、美術史を構築している証である。

© Moyoco Anno / Cork Inc.

1922年に設立されたホノルル美術館は、とくにアジア美術の分野において、アメリカ有数のコレクションとして著名であり、例えば日本の浮世絵に関しては、全米3位の所蔵数を誇る。このような専門機関のキュレーターが、安野モヨコの作品について、アカデミックな議論を展開していることの重要性は計り知れない。キュレーターや学者、そして批評家といった第三者に積極的に論じられることによって、作品はその対外的な価値の裏付けを得るからだ。批評家のリチャード・ヴァイン氏(「Art in America」誌シニア・エディター)の言葉を借りれば、「批評家は(作品に)知的ブランドというものを与え、芸術的に立証することによってアートマーケットに多大な影響をあたえる」のだ。

そして現代アートは、アート市場で評価されることで初めて、美術史へと刻まれる。日本有数のアート・マネージメント・ディレクターとして、艾未未氏や磯崎新氏などのマネージメントを手がける辛美沙氏(Misa Shin Gallery代表)は、著書『アート・インダストリー』でこう書いている。

「美術史の文脈は自然に発生するものではない。作らなければならない。歴史化とはマーケットがあってはじめて成立するプロセスである。マーケットのないところに美術史など存在しない」

アート作品は、批評と市場という、時に「乱暴」な気流にまみれることで、歴史の一部となるのだ。