スペシャルインタビュー 甲子園優勝3回、通算62勝の秘密 野球部コーチを勇退した小倉清一郎氏が明かす「横浜高校はここまでやっていたから、勝てた」

週刊現代 プロフィール

'98年に春夏連覇した時のエース・松坂は、小倉が最も〝可愛がった〟投手だ。徹底的に走らせて身体を絞り、股関節の固い松坂に柔軟性を高めるトレーニングを課した。クイック投球や牽制球、フィールディングなど、細かい技術も、すぐにプロへ送り出せるレベルにまで習得させた。

誰が何と言おうと、松坂は俺が育てた選手です。100%とは言わないけれど、松坂という投手を構成する60%ぐらいの技術は、俺が植え付けたと思っている。

メジャーへ移籍した当初、松坂には「アメリカで燃焼しろ」と伝えていました。日本に帰ってきて、12~13勝するならいいけど、6~7勝で終わるのならみっともないだろ、と。多額の年俸をもらうのならなおさら、重責を負うことになります。

歯向かう奴ほどかわいい

アメリカに渡って、投球フォームがおかしくなった時期に、「どうして肩を下げて投げるんだ」と指摘したことがあった。松坂にしてみれば、ボールの違いやマウンドの高さの違いなど、いろんな理由があり、試行錯誤していたんだろうが、その時にあいつから返ってきた言葉が忘れられない。

「小倉さんの言うことは自分でもわかっているんです。だけど、身体が言うことをききません」

高校時代から常に大口を叩く男だったから、その弱気な言葉を聞いて、俺も「そうか。わかった」としか言えなかった。

ただ、'11年にトミー・ジョン手術をして、投球フォームも以前に近い形に戻ってきた。まだまだ力はあると思います。福岡でもう一花どころか、大輪の花を咲かせて欲しい。その思いは、涌井や、今年からヤクルトに移籍した成瀬善久に対しても同じです。

昔は俺の指導に食ってかかってくる選手が多かった。松坂も、一度だけ「なんで俺だけ厳しいんですか」というようなことを言ってきたことがあった。俺が背を向けた瞬間に、硬式球を投げつけるふりをする選手もいた。そういえば、去年も投手陣に対するきついトレーニング中、地面にツバを吐かれたな。そういう態度にいちいち、腹を立てはしません。高校時代の俺も似たようなものだったから。むしろ食ってかかってくるぐらいの選手のほうが、鍛え甲斐がある。指導者として頭にくるのは、注意したことに対し、ふて腐れてしまうヤツです。大昔なら、俺も猛烈に血が上って手を出していましたが、今の時代はそんなことできません。

小倉が横浜高校を離れたことで、「神奈川の勢力図が変わる」とも叫ばれている。だが今後も、公式戦前の「小倉メモ」の提供だけは行うという。相手校にしてみれば、選手を丸裸にされる小倉の脅威は続くわけだ。

そして依頼があれば、小倉はこれからも野球指導で全国を行脚していく。

高校野球の指導者というのは、グラウンド外での苦労が多いんです。たとえば遠征に行く。練習試合を終えた選手が「腹減った」と言えば、ラーメンの一杯ぐらい食べさせたくなる。ひとりなら500円ですむかもしれないけれど、ひとりだけ食べさせるわけにもいかない。すると馬鹿にならない金額を負担しなくちゃならない。渡辺監督も、女房の着物を売ってまでカネをこしらえていた時期があったぐらいです。