『21世紀の資本』ピケティ教授が提唱「金持ちの財産にもっと課税せよ」 もし日本で実現したら、を考える 原田泰×田中秀臣

週刊現代 プロフィール

田中 経済だけでなく、政治的な問題になってきますからね。それでも、まずは資産の動きの情報開示だけでもやろうと思えばできるし、やったほうがいいと思います。

確かに、海外と日本では事情が違うので、ピケティ氏の議論をそのまま当てはめることはできません。日本では20年間もデフレが続いていましたから、デフレから脱却してインフレになるだけで税収が増える。この「インフレ増税効果」がしばらくは続くはずです。

原田 それはその通り。デフレ脱却を目指すことは、日本ではそのまま格差拡大の対策にもなります。

田中 さらに日本では、海外のように「1%の超富裕層」に巨万の富が集中しているわけではないのも重要です。むしろ問題は、政府が昨年「臨時福祉給付金」として1万円を支給した、約2400万人の低所得者層をどうやって助けるか。「金持ちが富を独占していること」よりも、「低所得者層が2400万人もいること」が大きな課題と言えそうですね。

財務省は大歓迎

原田 私はピケティ氏の意見に基本的には反対なんです。彼が懸念しているのは、富裕層の資産が相続によって子や孫に受け継がれ、どんどん格差が広がるという事態ですが、日本では何世代にもわたって資産を増やしている家はめったにありません。大金持ちの代表格とされるユニクロの柳井正社長や、ソフトバンクの孫正義社長も、相続で資産を得たわけではない。もし自力で築いた資産にまで重税を課せば、彼らのように優秀な人が稼ぐ意欲を削がれてしまう恐れがあります。

また、「ウォール街を占拠せよ」と唱えてアメリカの若者がデモを行ったのは、「金融トレーダーが富を生み出したフリをして不良債権の山を作り、金融危機を引き起こしたにもかかわらず、巨額の報酬を貰っているのはおかしい」と訴えるためでした。日本には、そういう「不当に富を得ている人」も多くない。

田中 しかしそうすると、2割の貧困層を救うために残り8割、つまり中流以上の層から税金を取ることになります。じゃあ所得税で取るのか、相続税で取るのか、それとも固定資産税で取るのか。課税対象は「一握りの大金持ち」では済まないでしょう。

少なくとも、固定資産税を上げるのはやめたほうがいいと思う。デフレ脱却で路線価が上がっても、家の壁から現金が出てくるわけじゃないですから。「中古住宅はどんどん売ればいい」と言われるけれど、欧米と違って日本の中古住宅市場は大きくありません。

原田 私はむしろ、相続税を下げて固定資産税を上げたほうがいいんじゃないかと思います。例えば今、都内で小さい家を持っていれば5000万~7000万円くらいの資産価値になりますが、固定資産税は年に20万円もかからない。25万円くらいまでなら上げる余地があるでしょう。相続税ではいきなり大きな額を取られるのに対して、固定資産税なら毎年少しずつ払えばいいですからね。