特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【後篇】

NHK科学文化部記者、番組プロデューサー、ディレクターら6人が執筆を分担した。「福島第一原発事故」が極めて深刻な状態だったことがどの章を読んでもよく理解できる

吉田が証言していたようにICの仕組みや挙動に対する知識は、十分でなかったのが実態である。しかし、40年間一度も動かしていなければ、実際に動かした時のICの蒸気の状態を知る人間がいなくなるのが当然ではないだろうか。ICの挙動を知る「技術の伝承」と言うべき機会が欠けていたのではないだろうか。これに対して、アメリカでは、数年に一度、ICを動かす検査が行われていた。

なぜ、福島第一原発では、ICを動かす訓練が行われていなかったのか。取材に対し、タスクフォースでこの問題について議論を重ねていた松本は、次のような見解を示している。

本来、ICから出る蒸気に放射性物質は含まれていないが、原発内部のどこかの配管に微細な穴があくと、微量の放射性物質が混じる恐れがある。このことが、外部に蒸気を出すことを慎重にさせた。さらにICを動かす時に出る轟音が、周辺住民を不安にさせるのではないか。こうした理由が重なって、ICを動かす訓練は行われてこなかった。

定期的にICを動かしてきたナイン・マイル・ポイント原発と40年間一度も動かしていなかった福島第一原発。

そこには、原発事故に向き合う日米の姿勢の違いが垣間見える。リスクに過度に慎重になる日本は、結果的に「技術の伝承」の機会を失ったのではないだろうか。

ICの機能停止を見過ごしていったことの深層に潜む問題は、今後、形を変えて日本の原発の弱点として現れてくるかもしれない。それを未然に防ぐためには、吉田調書のような記録を丁寧に読み解き、事故対応にあたった当事者や関係者の声に耳を傾け、教訓を導き出していくしかない。

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
近堂靖洋 1963年北海道生まれ NHK科学文化部専任部長 福島第一原発など国内の原発事故のほか、オウム真理教事件や北朝鮮拉致事件などを取材。
藤川正浩 1969年神奈川県生まれ NHK科学環境番組部チーフプロデューサー 原発事故のほか、気候変動など環境問題や自然番組などを制作。
鈴木章雄 1977年東京都生まれ NHK大型企画開発センターディレクター メルトダウンシリーズを中心にNHKスペシャルやクローズアップ現代を制作。
花田英尋 1979年青森県生まれ NHK科学文化部記者 福島第一原発の事故や廃炉、全国の原発の再稼働に向けた動きや課題などを取材。
岡本賢一郎 1978年香川県生まれ NHK科学文化部記者 震災当日から原発事故を取材するほか、原子力政策やノーベル賞など科学技術全般を担当。
沓掛愼也 1978年長野県生まれ NHK科学文化部記者 原子力安全・保安院、原子力規制委員会の担当を経て、現在東京電力の取材を担当。

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