特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【後篇】

終わりなき検証

事故から1年8ヵ月が経った2012年11月。東京電力内部の「原子力改革タスクフォース」が、1号機の事故対応についての技術面からの検証を行っていた。議論は、事故の初期段階で、1号機の原子炉を冷却するICについて、なぜ最優先で対応がとれなかったかにしていった。メンバーが口々に語ったのは、ICが動いていないことに気づく機会を逸していた問題だった。とりわけ焦点になったのは、1号機の「ブタの鼻」からもやもやとした蒸気が出ているという情報の取り扱いだった。メンバーの一人は、発電班の社員が、もやもやとした蒸気を見たが、ICが動いているかどうか、明確な情報伝達になっていなかったと指摘している。

このとき、福島第一原発では、ICが動いて「ブタの鼻」から蒸気が噴出しているところを実際に見た経験のある者は誰もいなかった。当然、見にいった社員も、もやもやという蒸気が、どのようなICの状態を意味しているか、詰め切れないまま、報告していたという指摘である。

東 京電力では事故報告書作成後も、当時のオペレーションに問題がなかったか、原子力改革タスクフォースで検証作業が行われた。原子力改革タスクフォースで は、東京電力の原子力部門の幹部が「自分たちには基本的な技術力が不足していた」と総括した 写真:NHKスペシャル『メルトダウンⅢ 原子炉〝冷却〟の死角』

メンバーの松本純一は、議論のなかで、もやもやとした蒸気に加えて、最初に気がつくチャンスだった11日午後4時40分台に1号機の水位が見えたことも踏まえて、次のように問題提起をしている。

「もやもやとした蒸気の話とか水位の話が出てくるが、なぜ、免震棟は情報をとりにいかなかったのか。あるいは、水位があることがわかったので、機能しているはずだと思ったのかもしれない。災害心理として、いい方向に考えてしまったかもしれない。ただ、できなかったのは、1号機から3号機が並行して動いていることもある」

議論では、複数のメンバーが、ICが動いていなければ、通常2時間で原子炉水位は燃料の先端部に達し、さらに2時間後には、燃料がむき出しになる可能性があると指摘している。事故当時、免震棟で対応にあたったメンバーの一人が、次のような発言をした。

「あと2時間で1号機の炉心が死んでしまうと認識していたら、すべてをおいて、消防車や消防用のディーゼルポンプなど、ありったけを投入してやっただろう。そうしなかったことが問われている。選択と集中をしなかったことが、厳しい目で見ると言われてしまう」

事故対応にあたっていた当事者の一人の口をついて出たこの言葉は、初動対応における、東京電力の率直な反省の弁と言えるのではないだろうか。

この議論をするなかでメンバーの一人が、驚いたように「もやもやとした蒸気というのは、動いているという意味ではないのか」と口にした。実は、事故から1年8ヵ月が経過した段階でも、東京電力のなかでは、もやもやとした蒸気が、ICが止まっていることを意味するという認識は共有されていなかったのである。

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