特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【後篇】

原発の重大事故がひとたび起きたら、対応にあたる現場が2つに分断されてしまう。これは、原発に背負わされた宿命とも言える。双方が綿密に情報を共有しないと、事故進展を止めることはできない。中央制御室と免震棟。2つの現場が互いにどう情報を共有し補い合うのか。再発防止のために答えを出さなければならない重い問いである。

謎の放射線上昇

午後9時台。免震棟が1号機のICの停止に気がつく最後のチャンスがやってくる。

午後9時50分すぎのことだった。原子炉水位の確認のため、運転員が原子炉建屋に入ろうと、二重扉の前に来たところ、線量計が10秒で0・8ミリシーベルトまで上昇し、入室を諦めたのだ。報告を受けて、吉田は、すぐに原子炉建屋の入室を禁止する。この時、吉田は、「何でこんなに線量が上がるのと、(中略)非常に高いというデータを聞いて、おかしいと」と証言している。しかし、同じ頃、免震棟には、疑心暗鬼になりかけた吉田を安心させるかのように、新たな情報が入ってくる。中央制御室から、1号機の原子炉水位計が復活したという報告だった。計測したところ原子炉水位は「TAF+200ミリ」だったというのだ。水位は、燃料の先端から20センチ上のところにあることを示していた。誰もが、燃料はまだ冷やされていると思った。1号機の水位は、午後9時30分に「TAF+450ミリ」、午後10時に「TAF+550ミリ」と報告された。1号機の水位計は、燃料の先端から55センチ上部まで水があることを示していたのである。

吉田は、この報告を聞いて「ほっとしました」と語っている。「水位が確保されているかどうかというのが、一番大きいポイントですから、炉心が溶ける、溶けない、水位がある値を縦よりも上にいってくれているということは、要するに安心材料なんです」と説明している。

しかし、現実は、まったく違っていた。午後9時台。実際の1号機の原子炉の中はどうなっていたのだろうか。その後の検証で、ICが止まり冷却機能を失った原子炉では、専門家たちの予想を超えた猛スピードで水が失われていたことがわかっている。

取材班が専門家と「サンプソン(SAMPSON)」と呼ばれる計算プログラムで解析した原子炉水位のシミュレーションでは、ICが止まってから1時間あまりが経った午後4時42分の時点で、すでに水位は燃料の先端まで減っていたと推定されている。そこから減少はさらに加速、午後8時52分には、燃料の底部に達すると推測されている。

午後9時台には、燃料は水につかっているどころか、すでにむき出しの状態になっていたと見られている。

誰も見ることのできない原子炉内部では、核が放つ膨大なエネルギーによって、急激なスピードで水が蒸発し、1号機は、メルトダウンへと突き進んでいた。原子炉建屋の線量上昇は、そのために起きていたのだ。

水位計の罠

取材班が専門家と行った解析では、午後9時台には、燃料がむき出しになるほど、原子炉の中の水は減っていた。

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