特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【後篇】

後の取材に対して、運転員の一人は、「蒸気が出ていないため、空だきになっているのではないかと疑った。ICが壊れると、原子炉の中の放射性物質が外に直接放出される。そうするともう誰も近寄れない。その時点では原子炉はまだ大丈夫だと思っていたので、間違った判断だとは思わない」と当時を振り返っている。

中央制御室と免震棟の断絶

このとき、中央制御室と免震棟は、大切な情報共有の機会を逸してしまう。午後6時25分に、再びICの弁を閉じたことが、免震棟の円卓には伝わっていなかったのだ。

吉田は、「こういう操作をしているという情報が円卓の中には入ってきていない」と証言している。

「1、2号中操(著者註、中央制御室のこと)と(中略)円卓の情報伝達が極めて悪かったんですね。(中略)どう動いているかという話が、その時点では、ほとんど入ってこなかったというのが実態なんです。私は、はっきり言って細かいところを聞いていないです」と打ち明けている。そのうえで「猛烈に反省している」と語り、「その時点でICは大丈夫なのかということを何回も私が確認すべきだった」と、現場の情報を自ら積極的に取りに行くべきだったと繰り返し述べている。

NHKメルトダウン取材班が最初に執筆した『メルトダウン 連鎖の真相』。事故を時系列に忠実にノンフィクションとして書き下ろしたもので、作家の立花隆氏が「圧倒的に情報量が多い。内容的にも最良」(2013年7月11日号)と絶賛した。写真や図版も多数収録されており、事故の全体像がわかると専門家からも高く評価されている

なぜ、中央制御室と免震棟の間で、ここまで情報共有が上手くいかなかったのか。28時間に及ぶ聴取の最終盤で、吉田は、自問自答の末に至った自らの推論を語っている。

「1Fの当直長だとか、発電の連中は、何とか自分でやろうという人が多いんですよ。それが反面、どんなになっているかという情報が伝わってこない。責任感が強過ぎるものだから、自分でやろうとし過ぎてしまっているのかなと、私はその後でずっと調査結果の話を聞きながら考えて、そんなのがあるのかなという気もします」

そのうえで「現場の情報も、結局、非常に限定された形でしか伝わってこないんで、どれぐらい大変なのか(中略)私は本店に対しても、こいつら、ぼけかと思っていたんですが、多分、当直長が、サイトの所長以下、何をやっているんだという気持ちになったと思うんです」と語っている。

福島第一原発の事故には、2つの現場があった。事故対応の指揮をとる免震棟と、事故対応の最前線で実際の操作にあたる中央制御室。中央制御室の運転員たちの大半は、地元福島の工業高校などを卒業し、原発の運転一筋に来た、たたき上げの職人集団である。一方、吉田をはじめとする免震棟の幹部たちの多くは、大学や大学院で原子力工学などを学び、入社後は本店と現場を行き来するキャリア組である。キャリア組の多くは、原発の運転経験がない。

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