「この本を通して伝えたいのは、起業家が財産を築くのと同じくらいの速さで、相続による財産が増えているということです。
一般国民がいくら働いても格差はさらに広がっていく。日本でも少子化が急速に進んでおり、多額の相続をする人とそうでない人の格差はますます広がる恐れがあります。
これは由々しき事態ですが、民主国家である以上、資産を獲得する競争が止まることはあり得ません。中間層に対して減税し、かつ高所得者の資産に対して増税するという政治的な対策が必要なのです」
パリ経済学校の教授を務め、43歳の若さにして、フランスを代表する経済学者のトマ・ピケティ氏。本誌の取材に対し、彼はこう警告を発した。
ピケティ教授の著書『21世紀の資本』が注目を集めている。
同書は'13年9月にフランスで刊行されたが、'14年4月にアメリカで英訳本が発売されるや大ヒット。経済の専門書にもかかわらず、米アマゾンの売り上げ総合1位に輝いた。
'14年12月には日本語訳版(みすず書房)も出版され、日本のアマゾンでも1位を記録するなど、ビジネスマンの必読書となっているのだ。
しかしながら、日本語訳で注釈を抜きにしても608ページにも及ぶ大著である。どんな内容なのか気になりつつも手が出ないという方のために、ポイントを3つに分けて『21世紀の資本』を読み解いてみよう。
(1)格差が起こるワケ—働くよりも、遺産を相続したほうが儲かる
ピケティ教授は、フランス・英国・米国・スウェーデン・日本など20ヵ国以上の税務統計を過去200年まで遡って検証を行った。
その結果分かったのが、株や不動産などの投資で得られる利益率が、労働による賃金の上昇率を上回るということだ。
これは何を意味するのか。『21世紀の資本』の翻訳を手がけた評論家の山形浩生氏が解説する。
「本書で主張していることは、実はとても簡単なことです。各国で貧富格差は拡大している。そして、それが今後大きく改善しそうにないということです。
なぜかというと、財産を持っている人が、経済が成長して所得が上がっていく以上のペースでさらに金持ちになっていくからです。ピケティの功績は、このことをデータで裏付けたことにあります」