前田日明 第2回
「ルスカのイタズラに表情ひとつ変えなかったグレート・アントニオは"本物"だと思いました」

島地 勝彦 プロフィール

ヒノ 本当は熱くてたまらないのに、強がって平気なふりをしていたわけですか?

前田 そりゃそうですよ。でも彼は何も言わなかったし表情ひとつ変えなかった。あれこそ悪役レスラーのダンディズムでしょう。男にとって、ときに強がるっていうのも大事なことなんです。

シマジ その通りですね。若い頃によく読んだ冒険小説なんて、言ってみれば、ロマンティックな愚か者たちの"強がりストーリー"ですからね。

立木 シマジはプロレスラーを取材したことはあるのか?

シマジ 素晴らしい質問です。たった一度だけですが、あるんですよ。アブドーラ・ザ・ブッチャーです。前田さんはブッチャーと闘ったことはありますか?

前田 昔、一度だけあります。

シマジ リングの上の彼は誰もが恐れる「黒い呪術師」だけど、実際は凄くチャーミングな男でした。一見怖いように感じるけど、よくみると目に愛嬌がある。そしてなにより地頭がいい。たしか彼はカナダ出身なんだけどスーダン人という設定ですよね。

ブッチャーが滞在しているホテルでインタビューしたんですが、終わる予定の時刻が近づいてくると、なぜかソワソワしている。どうしたんだとわたしが訊くと、「いまからおれのファンの女性がくるんだ。60分1本勝負をやらなくちゃいけない。プレイボーイ、おれは結構モテるんだぜ」とウインクして自慢していました。

女というのは見るからに強そうな男に本能的にひかれるんでしょうね。だから前田さんもモテるんですよ。

前田 いやいやいやいや。

立木 ブッチャーのところにはどんな女がきたんだろう。

シマジ 興味があったから訊いてみたら「ドクターの女房だよ」って教えてくれましたけど、姿は見ていません。

後日、彼が出る試合のリングサイドの席に招待されました。ただし必ずスニーカーを履いて来いというんです。試合を見てその意味が分かったんですが、場外乱闘になったとき、革靴を履いている観客は滑って転ぶ。その上をスニーカーを履いた観客が踏んづけて逃げ回るんです。

ブッチャーはさすがの悪役レスラーですから、入場してくるなり報道カメラマンのカメラをブッチ切るように奪うと、リングの支柱に叩きつけて粉々にしてしまった。わたしの想像ですが、あれは東スポのカメラマンと結託したパーフォマンスだったんじゃないかな。きっとカメラ代はブッチャーが払ったんでしょう。でも観客の恐怖心は十分に煽られましたから大成功でした。