前田日明 第2回
「ルスカのイタズラに表情ひとつ変えなかったグレート・アントニオは"本物"だと思いました」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ また引退試合の話に戻りますが、はじめから敵わぬ敵と闘う気持ちってどんなものなんですか?

前田 シマジさんはあの試合をご覧になったんですか?

シマジ ヒノに教えてもらってYouTubeで何度もみました。ものすごい緊張感がビシビシ伝わってきて、おもわず画面にかぶりついてしまいました。

前田 結局テイクダウンは取れなかったけれど、1本取れましたから自分としては満足しています。

シマジ あの試合を会場でみたファンは、前田日明がカレリンに殺されるんではないかと心配したでしょうね。

ヒノ でも最後まで死闘を繰り広げた前田さんに、ファンは大喝采を送っていました。

前田 ぼくは真剣勝負の総合格闘技というスタイルに行き着きましたが、プロレスというのはとんでもないスポーツです。力を抜こうと思えばいくらでも抜けるけど、試合中の受け身の取り方で気を抜くと命取りになることだってある。力を抜けると言っても、そもそも実力がない奴の試合は観れたもんじゃない。なんというか、選手の生き様がそのまま表れるスポーツなんです。

勝ち負けのルールを破っちゃうと業界から干されてしまうんですが、最後の1,2,3さえ守れば、それまでは喧嘩みたいなぐじゃぐじゃの試合をやっても大丈夫なんですね。とくに昔の新日はそういう試合が多かったです。

シマジ カレリン以外で、前田さんがこいつはバケモンだと思ったレスラーは誰ですか?

前田 戦後からプロレス界にはバケモンみたいなのが沢山いましたからね。そうだ、知ってました? 悪役レスラーには自分の弱いところを絶対に見せないという一種のダンディズムがあるんですよ。

自分は若いときウィレム・ルスカの付き人をやっていて、凄い光景を目にしたことがあります。あるときルスカがイタズラをして、グレート・アントニオの鉄の鎖をストーブの上に置いておいたんです。かなり時間がたって半分赤くなっていたんですが、アントニオは平気な顔でそれを手にとって首からぶら下げてリングに上がっていきました。

いやあ、あれには驚きました。と同時にグレート・アントニオはやっぱりタダモノではない、本物の男だと感心しました。その一件以来、ルスカも二度と悪さはしませんでした。