特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

1号機の原子炉水位が燃料の先端まで到達するのに、あと1時間の猶予しかない。衝撃的な予測だった。ICが動いているかどうかを見極めなければならない重要な警告だった。

吉田調書では、政府事故調の調査官がこの時の経緯を取り上げ、「TAFまで1時間」という発言をどう受け止めたのか吉田に尋ねている。

これに対して、吉田の答えは、意外にも「聞いていない」だった。それどころか、こう証言している。「今の水位の話も、誰がそんな計算したのか知らないけれども、本部の中で発話していないと思いますよ」

調査官が、当時の情報班のメモを示しながら説明した段階で、ようやく吉田は「発話しているんでしょうね」という認識を示すが、「今、おっしゃった情報班の話は、私のそのときの記憶から欠落している。何で欠落しているのか、本店といろいろやっていた際に発話されているのか。逆に言うと、こんなことは班長がもっと強く言うべきですね」と述べている。

ICの機能停止に気がつく最初のチャンスであった重要な警告は、なぜ吉田の記憶から欠落したのか。

取材班が入手した情報班のメモに、その手がかりが記されていた。メモには「TAFまで1時間!」という発言の後に、間断なく様々な担当者がマイクで発言する様子が記されていた。

「事務本館入室禁止!」

「海側バス乗り場まで、海水が来ているため、応援にいけない」

「4号機裏、軽油タンク火災の疑い。煙が5メートルほど昇っている」

「東京から高圧電源車が来るが、何時間ぐらいかかるか確認してください」 

巨大地震と巨大津波の被害が、原発の至る所で勃発していた。免震棟には、対応すべきことが次から次に押し寄せていたのだ。免震棟には、1号機から6号機まで、確認すべきことや問い合わせのコールが交錯していた。

取材に対し、中央制御室との連絡役を務めていた発電班の副班長は、こう答えている。「重要な情報が集まってくる。それを現場の指揮者の所長にしっかり把握してもらわなければならないということで、マイクの空きを各班が待つような状態だった。あれだけ大きなことが一度に起きると、みんなで共有することが非常に厳しかった」

さらに免震棟が行わなければならないことは、原子炉の対応だけではなかった。地震発生から、構内にいる社員と協力企業のすべての作業員の安否確認にも手間がかかっていた。この日は6350人もの人が働いていた。吉田らは、協力企業から入ってくる安否の情報を気にしながら、原子炉の初動対応にもあたっていた。メモには、「発電所から帰ろうとしている車、時速10キロで流れている」という発言もあった。