特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

ICの作動状況がわからない。このことに中央制御室は、この後大きく翻弄されていく。 

錯綜する免震棟

IC(非 常用復水器)の仕組み:原子炉で発生した高温の水蒸気が流れる配管が、ICの胴部にある冷却水で冷やされることで水に戻り、原子炉の冷却に用いられる。 ICは電源がなくとも原子炉を冷やすことができる CG:NHKスペシャル『メルトダウンⅢ 原子炉〝冷却〟の死角』

中央制御室から北西350メートルにある免震棟にも衝撃が広がっていた。全電源喪失の一報を受けたのは、中央制御室からのホットラインの電話を受ける発電班の副班長だった。1号機の当直長を経験したこともある50代のベテラン幹部で、1号機の運転操作を熟知していた。副班長は、この時、反射的に「もう、いつもの事故対応のマニュアルは使えない」と思ったという。「どうすればいいのか」。途方に暮れる思いだった。全電源喪失の一報は、免震棟中央の円卓に座る発電班長を通して、円卓中央に陣取る所長の吉田にも伝えられた。

RCIC の仕組み:原子炉隔離時冷却系と呼ばれるRCICは、原子炉で発生した蒸気でタービン(左)を回して、ポンプ(右)を動かし、冷却水を原子炉に戻す。起動 時には電源が必要だが、いったん起動すれば電源がなくても動く。ただし、電源を使って蒸気の量をコントロールするので、電源喪失時に正常に駆動する保証は ない CG:NHKスペシャル『メルトダウンⅢ 原子炉〝冷却〟の死角』

吉田調書の中で、この時の思いを吉田は「これはもう大変なことになった」と吐露している。そのうえで「アイソレーションコンデンサー(IC)とか、RCICがあれば、とりあえず数時間の時間幅は冷却ができるけれども、次はどうするんだということが頭の中でぐるぐる回っていた」と答えている。RCICとは、2号機から6号機にある非常用の冷却装置である。原子炉隔離時冷却系と呼ばれ、原子炉から発生する蒸気を利用して、原子炉建屋地下にあるタービン駆動ポンプを動かして、タービン建屋にあるタンクの水を原子炉に注水するシステムである。起動さえすれば、電源がなくても蒸気の力で動き続けることが可能だった。

吉田は、全電源喪失になっても、ICやRCICによって、しばらくは原子炉を冷却できると思っていたのである。

免震棟に、3号機は、バッテリーが生きていて、計器は見えているという連絡が届いた。RCICも動いていることが確認された。3号機は、地下1階と1階の間にある中地下室にバッテリーが設置されていたため、津波の被害を免れたのだった。これに対して、2号機は、計器がまったく見えないという報告だった。電源が失われる直前にRCICを手動で起動させたという連絡は受けていた。

しかし、現在、原子炉の水位も見えないことから、RCICの起動に成功したのかどうか、不明だった。2号機のRCICは動いているかどうか、わからない状態だった。

残る1号機。この時点で、吉田ら免震棟の幹部は、1号機のICは動いていると考えていた。津波が来る前に、自動的に起動したという報告を受けていることが理由だった。中央制御室とホットラインでやりとりしていた発電班の副班長もICは動いているだろうと思っていた。

副班長は「ICは、静的機器ともいわれ、バッテリーで回転するモーターなども必要なく、非常時には有効な冷却装置だと思っていた。私も含めてみんなICが動いてくれればいいなという状態だった」と話している。