特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

暗闇に包まれた中央制御室に、当直長の「SBO!」と叫ぶ声が響いた。ホットラインを通じて、免震棟の発電班に「SBO。DGトリップ。非常用発電機が落ちました」と伝えた。SBO=Station Black Out、ステーション・ブラック・アウト。福島第一原発が15メートルの津波に襲われ、全ての交流電源が失われた瞬間だった。 

冷却措置を巡る判断ミス

電源喪失から10分経った午後3時50分。暗闇に包まれた中央制御室では、運転員たちが、灯りになるものを必死で探していた。LEDライトの懐中電灯や携帯用バッテリーつきの照明機器。30個は見つかっただろうか。かき集められた灯りを頼りに、当直長らは、真っ先にシビアアクシデントと呼ばれる過酷事故の対応が書かれてあるマニュアルのページを手繰った。

しかし、どこをめくっても全ての電源を失った緊急事態の対応は記されていなかった。東京電力の緊急対応のマニュアルは、中央制御室の計器盤を見ることができ、制御盤で原発の操作が可能なことを前提に記載されていた。すでに事態は、マニュアルや、これまで積み重ねてきた訓練をはるかにこえた未知の領域に入っていたのだ。

重要な計器盤もまったく見えなくなった。原子炉の水位や温度といった原発の状態を把握するための数値や原発を動かすさまざまな装置の作動状況を知るための数値がすべて消えたままだ。目隠しをして車を運転しろと言われたようなものだった

運転員の一人は、取材に「今回の事故で最も衝撃を受けた瞬間は、非常用発電機が使えなくなったときだ」と打ち明けている。「これで何もできなくなった。やれることは、もうほとんどないという思いを持った」と語っている。

非常用の冷却装置の動きも一切わからなくなった。

1号機の非常用の冷却装置のICは、蒸気の力で動く。いったん起動すれば、電気がなくても、原子炉建屋4階にある冷却水タンクを通って冷やされた水が原子炉に注がれ、原子炉を冷やし続けるはずだった。しかし、ICを起動したかどうかを示す計器盤のランプが消えてしまい、作動状況がまったくわからなくなってしまった。

ICの操作盤のレバーは、操作した後、手を離すと、必ず中央の位置に戻るようになっている。弁が開いている場合は、赤いランプが点灯し、閉じている場合は、緑のランプが点灯する。レバーは、何度も操作するので、弁が閉じているか開いているかは、点灯しているランプの色で判断している。そのランプが消えてしまった今、弁が開いているのか、閉じているのかがわからなくなってしまったのだ。