特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
東日本大震災発生直後の1、2号機の中央制御室 写真:NHKスペシャル『メルトダウンⅢ 原子炉〝冷却〟の死角』の再現ドラマより

揺れが続く中央制御室に、当直長の大きな声が響いた。「スクラムを確認しろ!」

スクラムとは、原子炉の核分裂反応を止めるため制御棒と呼ばれる装置を原子炉に挿入することである。大きな地震を感知した原発は、自動的にスクラムをする設定になっている。

揺れがようやくおさまった。室内には、土埃を感知した火災報知器や計器の異常を示す警報がけたたましく鳴り響いていた。正面にある原子炉の様子を示す蜂の巣状のデザインのパネルが、全て赤く点灯していた。赤は制御棒が原子炉の中に入っていることを示す色だった。スクラムが成功し、原子炉は止まったのだ。安堵の空気が流れた。しかし、それもつかの間だった。運転員の一人が叫んだ。「外部電源が喪失しています!」

外部の電源が失われたのだ。誰もが初めての経験だった。再び緊張が走る。

「非常用DG確認して!」すかさず当直長の指示が飛んだ。

DGとは非常用のディーゼル発電機を意味する。まもなく運転員が声をあげた。「非常用DG起動! A・Bとも起動中」A系、B系と2系統ある非常用のディーゼル発電機が動き始めた。室内に重低音の震動が伝わってきた。いったん失いかけた電気を原発内で作り出すことに成功したのだ。

運転員の一人は、こう振り返っている。

「この時、まだ警報はいっぱい鳴っていました。しかし、スクラムに成功して、電気を確保できれば、後はマニュアルに従って、設備の状態を点検していけばいいのです。それほど難しい操作とは思っていませんでした」

当直長以下、運転員が次に目指すべきは、原子炉の冷温停止だった。スクラムに成功して核分裂反応が止まっても原子炉の温度は、およそ300度の高温状態にある。温度を徐々に下げて100度以下にするのが冷温停止である。炉内の水の沸騰を収め、原子炉の状態を安定に保つためだ。そのために必要だったのが、IC・非常用復水器と呼ばれる非常用の冷却装置だった。ICは、原子炉から出た蒸気を原子炉建屋4階にある冷却水タンクに導き、タンクの中の細い配管を通すことで蒸気を冷やして水に戻す仕組みになっている。その水が原子炉に注がれると、原子炉は徐々に冷やされていく。地震から6分たった午後2時52分。1号機のICが自動起動した。