特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班
『福島第一原発事故 7つの謎』は、ほぼ時系列に沿って、章立てしている。1章から読んで頂ければ、事故の進展に従ってその全体像が理解できるように構成している。それぞれの章は一つのテーマを巡って一話完結といったおもむきになっている。

「人間は核を制御できるのか」、その根源的な問いに迫るため、取材班は3年以上にわたって、事故対応にあたった運転員や幹部など500人以上にのぼる関係者から直接話を聞き、事故の検証取材にあたってきた。

「事故はなぜ拡大したのか」「本当に防ぐことはできなかったのか」。吉田調書は、その謎を解くための新たな重要資料だった。調書はおよそ400枚。28時間におよぶ聴取に対して、吉田は、事故に関わった政治家や専門家を、時に「あのおっさん」と呼び、開けっぴろげで歯に衣を着せない口調で、事故にどう対応し、何を考えていたのかを語っていた

取材班は朝日新聞の報道で議論になっていた撤退問題の真相を解明するとともに、事故の初動、特に最初にメルトダウンした1号機に吉田がどう対応し、何を考えていたのかを読み解く作業にとりかかった。

福島第一原発の事故は、メルトダウンした1号機が水素爆発を起こすことで、収束作業が後退し、その後3号機の水素爆発、2号機の放射性物質の大量放出へと連鎖的に悪化していく。逆に言えば、1号機のメルトダウンをなんとか防げば、その後の展開は大きく変わったと言える。1号機の対応こそ事故の進展を決める重要なポイントだった。

原子炉を冷却するIC(非常用復水器、運転員は「イソコン」と呼ぶ)の構造。MOは電動弁を表す(東京電力報告書より)

その鍵を握っていたのが1号機の非常用の冷却装置、IC(非常用復水器)への対応だった。ICは、電源が無くても蒸気で動いて原子炉を冷やす非常用の装置である。吉田以下免震棟の幹部は、津波で電源が失われた1号機は冷却装置が動かなくなったが、ICだけは、機能が維持されていると考えて、事故対応にあたっていた。ところが、後の政府事故調や東京電力の調査で、1号機のICは、津波の直後から動いていなかったことが判明する。実は、ICの弁は、電源が失われると自動的に閉じる構造になっていたのだ。これは、電源が失われるなど何らかの異常があった時、原発内部から放射性物質が外部に漏れ出ないよう配管の弁を自動的に閉じるフェールクローズと呼ばれる安全設計に基づくものだった。安全設計による停止なら、なぜ、当初からICは止まっている可能性があると、吉田をはじめとする原発のプロ集団が思い至らなかったのだろうか。そもそもこの安全設計の仕組みは、どれほど知られていたのか。取材班にとっては、長い間謎の一つだった。