特別寄稿 『福島第一原発事故 7つの謎』 事故から3年経ってなお次々に浮かび上がる謎 「1号機の冷却機能喪失は、なぜ見過ごされたのか?」 【前編】

NHKスペシャル『メルトダウン』取材班

ICが動くと、実際は、どのような蒸気が噴き出すのか。アメリカには、福島第一原発と同じころに作られ、ICを備えた原発が今も稼働している。アメリカ東海岸にあるニューヨーク州のナイン・マイル・ポイント原子力発電所もその一つだ。この原発では、福島第一原発とは異なり、定期的にICの起動試験を行っていた。ICが正常に作動するかどうかを確認するためだった。ナイン・マイル・ポイント原発の幹部グレッグ・ピットは、運転員なら誰でも、ICが動いた時の蒸気の状態を知っていると説明した。ピットは、「大量の水蒸気が出て、うるさいどころか轟音がする。心の準備ができていないと、びっくりするほどだ」と証言した。

NHK科学文化部記者、番組プロデューサー、ディレクターら6人が執筆を分担した。「福島第一原発事故」が極めて深刻な状態だったことがどの章を読んでもよく理解できる

2010年の起動試験の時に撮影された写真には、もやもやどころか、原子炉建屋全体を覆い尽くすほどの大量の蒸気が出ている様子が写っていた。では、もやもやとした蒸気は、何を意味するのか。

取材に対し、ピットは「もやもやとした蒸気は、ICが停止してから2~3時間の間に出る蒸気の状態だ」と明言した。もやもやとした蒸気とは、ICが止まっていることを意味していたのだ。1号機の当直長の経験もあり、福島第一原発を古くから知る発電班の副班長は、こう振り返っている。

「過去、私も、ICが実際に動いている状態を見た経験はありませんから、多少なりとも蒸気が出ていたので、もしかすると動いているかもしれないと考えてしまった。止まっているという確信を誰もあげていなかったし、所長クラスに、しっかり判断できる材料を誰も進んで言えなかったということだと思います」

ブタの鼻から出ていたもやもやとした蒸気こそ、ICが止まっていることに気がつく大きなチャンスだった。しかしチャンスはまたも失われてしまったのだ。(「後編」に続く)