【沿線革命008】交通イノベーションによる沿線革命元年、
朝日新聞の鉄道報道について考えた

阿部等(交通コンサルタント)

朝日新聞が創った1つの不安

国鉄の分割民営化の際、朝日新聞の言説が社会全体をリードした(朝日新聞 1987(昭和62)年4月1日付 1面)

私は、国鉄の分割により組織規模が適正化されて意思決定がスムーズとなり、民営化により利潤追求を共通目標に活力が醸成され、鉄道の明るい未来が拓けると期待した。同時にある1つの不安を抱き、以来30年近くが経過しその不安は的中してしまった。

不安とは、「鉄道は収益性を期待できない」「周辺事業を伸ばすことこそが重要」との考えが、鉄道業界と社会全体に広まったことである。多くのマスコミがそう報道し、JR各社は周辺事業を伸ばして売上高に占める鉄道事業の比率を下げることを社是とした。

私は、その世論を創りかつ誘導したのがまさに朝日新聞だったと昨年の騒動の中で思い至った。

国鉄が分割民営化してJR各社が発足した1987(昭和62)年4月1日の朝日新聞1面の記事を示す。鉄道再生のために「事業多角化へ知恵を」との大きな見出し、本文には「合理化と多角化こそが鉄道再生の王道」とある。

 大谷 健編集委員は国鉄再建などをテーマに活躍し、1987年度の日本記者クラブ賞を受賞した(http://www.jnpc.or.jp/activities/award/awards-prize/)。固定観念にとらわれない柔軟な発想、切り込み、明快な表現などが評価されたという。

朝日新聞が鉄道の未来を閉ざす世論を形成した?

朝日新聞があればこそ、大谷氏が活躍したればこそ、国鉄改革は断行され日本の鉄道を救えたと私は高く評価する。その一方、私が30年近く前に不安を感じた言説を社会に広めたのも朝日新聞だった。

私は大谷氏の分割民営化を説く記事を大量に読み、全面的に納得する一方、「鉄道は収益性を期待できない」「合理化と多角化こそが大切」との言説に大いなる疑問を持ち続けていた。

しかし、大半のマスコミは同じ言説を唱え、国鉄も運輸省も大蔵省も、多くの政治家も学識経験者も評論家も異を唱えなかった。天下の朝日新聞の国鉄問題のプロが誤るはずがないと多くの人が思い込んだ。

そして、30年近く経過しての結果が「2015年の首都圏鉄道網はこれしか変わらない」という残念な現実である。

JR各社がエキナカ事業その他に熱心に取組むことをここでは論評しない。問題は、「鉄道は収益性を期待できない」と決め付け、鉄道事業は合理化・経費節減ばかりを進めることだ。

大谷氏は1997(平成9)年に著した『JR10年の検証 国鉄民営化は成功したのか』にて、合理化に努め運賃値上げをしないJR各社を褒めたたえた。増発とスピードアップを評価したが、人手を減らして実現してこその評価である。新たな列車運行や新車投入への評価も、減価償却内での設備投資が前提だ。

国鉄時代に顧客指向も効率性も低かったのが、スムーズな意思決定と活力の醸成により、サービス改善と効率向上が同時達成されたのは当然のことだった。

「合理化こそ」と決め付けず、「人手や投資が増えても、それ以上にサービス改善すればよりプラス」「サービス改善すれば運賃が多少高くなっても納得する利用者は多い」と発想していれば違う道があったはずだ。この記事にも「2015年の首都圏鉄道網はこんなに変わる」と書けただろう。

「沿線革命」を起こすために、あえて書こう。

朝日新聞が広め、関係者が皆そうだと信じきっている「鉄道は収益性を期待できない」との言説は事実誤認だと。固定観念にとらわれずに柔軟に発想すれば「鉄道は収益性を期待できる」「沿線革命を起こして住みたい街を増やし人々を幸せにできる」と。