『ブルネイでバドミントンばかりしていたら、なぜか王様と知り合いになった。』

さらに、著者は、毎日このバドミントンコートで練習をしているが、そこで外国人を見たことがない。大使館などでも、ブルネイ人がバドミントン好きだ、という話題は出たことがない。つまり、バドミントンが政府との関係強化に利用できることに気づいている外国人や外交関係者はほとんどいないに違いない。著者は「思わぬ鉱脈を掘り当てた」のだ。

とはいえ、どうきっかけを作ればいいのか。これまでの対戦相手はホテルのインストラクターと日本人会の人々ぐらい、地元のブルネイ人とのバドミントン人脈はまったくない。加えて、マリアム元妃の腕前を見るにつけ、なによりまず技術レベルが雲泥の差だ。

最初に著者がしたのは、地元のバドミントン好きのおじさんたちが集まる、自宅近くの村の公民館に出かけることだ。この超地道な発想はとても好きだが、セレブまでの道のりは実に遠そうである。そして、バドミントンのウェアを来て、ラケットを持ち、バドミントンシューズを履いて、公民館内をうろうろする。まさに全身バドミントン野郎なわけだが、悲しいかな、誰も声をかけてくれない。それどころから目も合わせてくれないのである。

そして翌日、やっぱり声をかけてくれない。コートの隅で試合を見て、ナイスプレーに拍手したり、惜しいプレイに残念な仕草をして、周囲にアピールするも無視される。わずかな進歩は、たまに目が合うのようになったことぐらい。それもすぐにそらされてしまうのだが。

そして3日目についに変化が。男がマレー語で話しかけてきたのだ。著者は「私は日本人でバドミントンをしたくてここに来た」と英語で答える。以下、本書のなかで一番好きなシーンなので引用してみる。

“その男はホール中に響き渡るような大声で、
「アッパ・ニー! オラン・ジャプン!(何だって! 日本人だとよ)」
と叫んだ。そこにいた人たちの視線が、一斉に私に向く。
奥にいた親分らしき人物がゆっくりと立ち上がり、口笛を吹きながら私に近づいてきた。親分は、通訳役の男を従えていた。
「よし、日本人。あのコートの次の試合に入れ、シャトルは持ってきただろうな?」
「お前のパートナーはあいつだ。やつのアダ名はスリートン。スマッシュは3トン級だから頼もしい味方になるぞ」
紹介された男のほうを見ると、スリートンが駆け寄ってきて、親指を立て、私の親指に擦りつけた。ブルネイ式の「指きり」のようなものだろうか。
対戦相手は「グリーン・グリーン」という男だった。
「俺はグリーンが好きなんだ。見ろ、上から下まで全部グリーンだろ」
シャツにパンツ、靴に靴下、靴ヒモ、座っていた椅子までグリーン一色だった。
「俺のパートナーはペンギラン・チーターだ。チーターとは嘘つき(Cheater)という意味だ。あいつはいつも得点をごまかすから、お前らよく注意しておけよ」
グリーン・グリーンは冗談交じりに言った。”

グリーン・グリーンって(笑)。