田村耕太郎【第3回】世界から礼賛されてきた国民皆保険・皆年金システムが日本をより苦しめる

『シンガポール発 最新事情から説く アジア・シフトのすすめ』より
田村 耕太郎 プロフィール

もしこれを消費税だけでまかなうなら、消費税率は22・5%となると推定される。2050年まで時間軸を伸ばしてみると、社会保障給付費は249兆5000億円まで膨らむと見られ、それを消費税でまかなうとしたら、消費税は35%と推計される。

実際には社会保障もカットしながら他の税も上げていくことになるだろうが、それでも消費税は今世紀半ばには30%近くになって、世界最高水準となると思われる。人口減少と高齢化で消費市場が急減、負担は急増。そして日本経済の縮小や日本の国家財政の緊迫から円も今より安含みとなっていけば、食料やエネルギーの価格高騰を通じてさらに生活水準が下落し、消費者心理は悪化し、これがさらに経済縮小をもたらすという悪循環となっていく可能性が高い。

それを嫌って多くの企業が活路をアジア等の新興国に求め始め、いわゆる空洞化が加速していくかもしれない。そうなれば、雇用と税を負担する能力がどんどん海外に出てしまい、負担の増加と生活水準の下落はさらに加速、悪循環が加速していく。

おまけに、それまでにGDPの200%を超える公的債務を抱える日本の財政に何かが起こる可能性が高い。財政破たんをどう定義するかによるが、公的債務は民間資産で穴埋めされることになるから、国民の資産が平均して半分くらい吹っ飛ぶ可能性も高い。これも負担増、しかも急速で甚大な負担増だといえる。

限界まで悪化した財政状況の我が国で、人口減少と高齢化のさらなる進行の意味するところは、国民の豊かさの絶望的な悪化である。

 社会保障制度の限界

人口1億人を超える大国で国民皆保険・皆年金を実施している国は日本だけだ。世界から礼賛されてきたこのシステムが、今後の日本を苦しめることになる。

国民皆保険が導入されたのは1961年。当時の人口動態のチャートをご覧いただけば一目瞭然だが、当時は現役世代が高齢者よりずっと多かった。その比率は、労働力人口対高齢者が9対1で、これだけ現役世代の厚みがあれば世代間で養いあう相互扶助方式の導入に踏み切ったのは合理的な判断だったかもしれない。

しかしその後、このピラミッドはその形を変え続け、今やその比率は3対1を切っている。そして2050年には1・3対1とほぼマンツーマンになり、維持不能となる。

なぜ人口動態の変化に気づきながら、制度を変えられなかったのか? それは、票が重く投票率が高い高齢者への政治的配慮があったからだと思う。地方都市の高齢化はずっと進み、そこでの一票は都市部より常に重く、投票率は常に高い。

政治家にとって高齢者は、重みと頭数を持った大切な顧客である。ぞんざいに扱うわけにはいかない。一方で、都市部の若い現役世代や学生は、地方に住む高齢者に比して、選挙に無関心であり続けた。政治に頼らない人たちなので当然である。

地方は与党の中で常に大物を輩出してきた。当選回数を稼ぐには、選挙時の風に左右されやすい都市部より、安定した基盤となりやすい地方選挙区が有利で、戦後の総理のほとんどが地方選挙区の出身であることはその証左といえよう。

結果、地方の高齢者の意を汲んだ政策が配慮を受け、維持不能の国民皆保険や皆年金をいじるのは、票を減らせども票になることはないと判断されてきたのだと思う。