勝間和代×渡辺由佳里【前編】「具体的な目的のない努力は疲れるのでやめにしましょうよ」

なぜ、死ぬほど努力しても結果が出ないのか

勝間: 努力といえば私、すごく難しいなと思っていることがありまして……。マルコム・グラッドウェルの『天才!成功する人々の法則』(勝間和代訳、講談社)に出てくる「マタイ効果」のことです。つまり、人間はわずかでも得意なことについては、楽に努力ができる。逆に、苦手で劣っていることについては、死ぬほど努力しても、たいした成果は出せないという話です。

渡辺: そうそう、それなんです。

勝間: さらに悪いことに、いわゆるコーチング本って書店にたくさん並んでいますよね。あの種の本の何がまちがっているかって、「得意な人が苦手な人に教える」という構図なんですよ。あれはひどい。苦手な人はどこにつまずくのかを、教える側が理解していないんですから。

渡辺: すごく分かります。すぐれたスポーツ選手が、教えるのもうまいとは限らないのと同じですよね。「できる人」には、「できない人」がなぜできないのかが分からないことがある……。

勝間: そうなんです。その部分をすっ飛ばして、努力しなさいと叱咤激励したり、テクニカルなことを教えたりしても、まったく意味がない。

渡辺: 本当にそうですね。

勝間: 誰しも、自分ができないことをすべてできるようにするのは不可能です。であれば、そうした1つひとつの課題について、「死ぬほど努力をしてでもいいから、人並みレベルまで改善したい」課題なのか、それとも「すでに人並み以上にはできるから、もうちょっとだけ高みを目指したい」課題なのかを考えてみる――この2つのポートフォリオでいいと私は思うんですよ。

渡辺: ああ、私もそうです。私が娘を育てる時も、そこがポイントでした。私は夫がアメリカ人で、私たちはずっとボストン郊外に住んでいるんですが、大学生のひとり娘は日本語ができないんです。そんなに努力しなくてもいい成績をとれる科目もあるのに、日本語だけは、どんなにがんばって勉強してもダメで……。母親が日本人なのにそれってどうなの、とおっしゃる方もいるかもしれませんが、私は娘に言ったんですね。「日本語ができなくったって生きていけるんだから、いいじゃない」と。

マーケティング・ストラテジストのデイヴィッド・ミーアマン・スコット。著作に『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)などがある。

勝間: 英語はできるわけですものね。十分ですよね、それで。

渡辺: そう、それで十分なんです。つまり、得意でないことを一生懸命努力するよりは、そこそこ得意なことに磨きをかける努力にリソースを注いだほうがいい。

苦手を克服する7:3の法則

勝間: こういう話をすると、必ず「でも、私には得意なことが何もないんです」とおっしゃる方がいます。それでも私は、その人が「相対的に」得意なことにフォーカスして努力したほうがいいと思う。

で、短所についてなんですが、私はよく「ボトルネック」の話をするんです。つまり自分の短所のうち、社会に出て自分の能力を人に示したり使ってもらおうとしたりする場面でボトルネックになってしまう短所があるなら、それは「ボトルネックでない程度」まで改善したほうがいい。そこはやっぱり努力すべきところなんです。

渡辺: そうですね。わかります。

勝間: 何がボトルネックなのかは、人によってさまざまです。ある人の場合はファッションセンスだったり、別の人の場合は話しかただったり、コミュニケーションスキルだったりする。そうしたボトルネックを外すために、必死に努力をしなければならない局面というのは、確かにあります。

渡辺: たとえばプレゼンテーション能力が欠けているせいで、せっかくの才能を生かせないという場合は、やっぱりつらくてもプレゼンテーションの練習をしたほうがいい。

勝間: その練習といっても、とてつもなく高いゴールを設定する必要はないんです。「人並みにプレゼンできる」くらいでいい。で、そのポートフォリオは、私は7:3くらいがベストだと思っているんですよ。自分が得意でやりたいことに7割の時間とエネルギーを割り当てて、残りの3割を、「苦しくてやりたくないけれど、ボトルネックを外す努力」に割りふる。

渡辺: 7:3ですか、具体的な数字でわかりやすいですね(笑)。こういう話って、よく「努力努力っていうけれど、具体的にどの程度努力すればいいんですか」と言われてしまいますから。

勝間: これが6:4だとね……苦手なことに割く割合が多くてつらくなっちゃう。かと言って、8:2では効果が出ない(笑)。

渡辺: だから7:3なんですね(笑)。そのくらいがちょうどいい。

勝間: 1つ注意すべきなのは、この3割の努力というのは、つらいし、効率が悪くて当たりまえなんだと理解しておくことです。なかなか思うように効果が出なくてイライラするんですが、まあそういうものだ、と覚悟しておく。