第6回ゲスト:大沢在昌さん (後編)
「『生島治郎の後を継いで、日本にハードボイルドを根付かせるのはおれだ!』と本気で思っていました」

島地 勝彦 プロフィール

振り返ってニヤッと笑う秋田犬。そして惨劇が起こった

島地 疎開先の岩手でのことですが、小学校に通うルートが2つあってね。1つは普通の道で、もう一つは近道だけど山のなかを通る農道みたいなもの。この近道の途中に民家があって、大きな秋田犬を飼っていた。そこを通るたびに悪童仲間と石をぶつけてからかっていたんけど、向こうは鎖につながれているから、ワンワン吠えるだけで何もできない。

日野 ああ、もうこのまま子供になったシマジさんが目に浮かびます。

島地 ある日、その家の前を通ると犬が後ろを向いて伏せていた。いつものように小石を投げたら頭にコツンとあたった。いつもならすぐに吠えだすのに、なぜかじっとしてるんだよ。妙だなと思ってよーく見たら、その日は鎖につながれてなかった!

大沢 その先がウソ臭くてね、やばいと思って逃げようとしたら、「犬が振り返ってニヤッと笑った」と、シマジさんはいうわけ。

日野 そんなわけないでしょう!

島地 ウソじゃない、本当なんだよ。忘れもしない、勝ち誇った目をして、ニヤッと笑ったんだよ。こっちは必死に逃げるんだが、走りでは犬には勝てない。さらに、走った先は崖っぷち。

大沢 で、犬に噛まれるくらいならと思って、崖から飛び降りた。

島地 そう。下は田んぼだったけど、けっこうな高さがあって、右足がポキッと折れた。

日野 ぶ、ハハハッ。ほんとですか!? それで犬嫌いだったのか。

大沢 この人の犬嫌いは徹底してるんですよ。女の家に遊びに行っても、玄関を開けて犬が尻尾振ってると、「今日はここで」って、獲物を目の前にして帰るらしいですから。

島地 男には、どうしてもゆずれない一線があるんだよ。ハードボイルド作家なら分かるだろう。

〈了〉

 

大沢在昌 (おおさわ・ありまさ)
1956年、愛知県名古屋市生まれ。慶応義塾大学中退。1979年、『感傷の街角』で第1回小説推理新人賞を受賞し作家デビュー。1991年、『新宿鮫』で吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞長編部門受賞。1994年、『無間人形 新宿鮫4』で直木賞。2001年、『心では重すぎる』、2002年、『闇先案内人』で日本冒険小説協会大賞を連続受賞。2004年、『パンドラ・アイランド』で柴田錬三郎賞。2006年、『狼花 新宿鮫9』で日本冒険小説協会大賞。2010年、日本ミステリー文学大賞、2012年、『絆回廊 新宿鮫10』で日本冒険小説協会大賞。2014年、『海と月の迷路』で吉川英治文学賞を受賞。「新宿鮫」シリーズ、「佐久間公」シリーズ、「アルバイト探偵」シリーズなど、著書多数。
公式HP「大極宮」:http://www.osawa-office.co.jp/
島地勝彦 (しまじ・かつひこ)
1941年、東京都生まれ。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任した。現在は、コラムニスト兼バーマンとして活躍中。『甘い生活』『乗り移り人生相談』『知る悲しみ やっぱり男は死ぬまでロマンティックな愚か者』(いずれも講談社)『Salon de SHIMAJI バーカウンターは人生の勉強机である』(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。Webで「乗り移り人生相談」「Treatment & Grooming At Shimaji Salon」「Nespresso Break Time @Cafe de Shimaji」を連載中。最新刊『お洒落極道』(小学館)が好評発売中!

著者: 島地勝彦
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