大西洋 第4回
「シマジさん、暖かくなったら二人で藤巻の墓参りに行きましょう」

島地 勝彦 プロフィール

シマジ それは重々理解しています。タッチャンなしではおれは生きていけないこともわかっていますよ。

立木 大西社長、よくこんな我が儘なやつのセレクトショップやバーを作ることを決断しましたね。

大西 シマジさんのセンスに惚れたんです。新刊の『お洒落極道』にしても、立木先生の写真はもちろん見事ですが、なによりシマジさんの浪費の美学に圧倒されました。しかも毎週末、うちの店で13時から20時まで休憩時間も取らずにバーカウンターに立っていらっしゃる。頭が下がります。

シマジ 「バーカウンターは人生の勉強机である」と言って、はじめの頃は傲慢にも、わたしが人生の先生でお客さんは生徒、だから授業料として酒代を支払ってくれるんだと思っていました。でも最近は、どうやらわたしのほうが生徒みたいな気がしてなりません。

セオ その割にシマジさんは常連のお客さんを「モリマサ」とか「シラカワ」とか「タニガワ」とか呼び捨てにして強気な商売をしているんですよ。そんなのアリですかね。

シマジ おれは友情を込めて、あえて「君」も「さん」もつけずに呼んでいるんだよ。ちょうど横尾忠則さんが親しい信頼のおける編集者を「シマジ君」とか「ジロウ君」と呼ぶのと一緒だね。親しくない編集者に対しては横尾さんは「セオさん」と「さん」を付けて呼ぶんだよ。日本語のニュアンスって難しいよね。

セオ どうしてシマジさんは教授ではなく生徒に格下げされた気分になったんですか?

シマジ それはおれが知らないいろいろなことを、あそこでお客さまから教わっているからだよ。この間もいまの子供たちの名前が乱れているという話題がカウンターに上がったとき、おれははじめて聞く名前の氾濫に驚いたんだ。

例えば、「海」と書いてマリンと読ませたり、「闘斗」と書いてファイトと読ませたりしている。さらには、「夢希」をナイキ、「今鹿」をナウシカ、「幸生大」をシイタ、「笑陽斗」をラビット、「光宙」をピカチュー、「深南」をミナミと読ませるそうだ。なかでも最高傑作は、「黄熊」と書いてプーだ。これはすべて若いお客さまが教えてくれた。

でも子供のうちは可愛い呼び名だけど、歳を取って死んだとき、お坊さんはどうやって戒名をつけるんだろうかと考えらせられたね。