「雨にあたると髪の毛が抜ける」という言葉を記憶しているでしょうか。
私が上映会の来場者に尋ねると、中高年はほとんどの方が「覚えている」に手を挙げます。私自身、子どもの頃、親からよく言われたことを覚えています。幼心に「雨に濡れると風邪を引く」と同類のたとえ話だと思っていました。
実は、この言葉、正確にいうと「放射能雨にあたると被ばくし脱毛する」となります。たとえ話にしてはちょっと強烈です。
しかし、事実に基づいた言葉なのです。つまり、かつて日本では放射能雨が降り大騒ぎになったのです。
日本中で放射能雨の騒ぎが始まったのは今から60年前。第五福竜丸というマグロ漁船がアメリカの水爆実験で被ばくした昭和29年(1954年)です。
この年、全国各地で雨から強い放射性物質が見つかりました。京都では1リットルあたり8万6000カウント(現在の飲料水の基準値の1800倍、1万8000ベクレルにあたる)、東京でも3万2000カウントの雨を計測。昭和29年だけではありません。沖縄では昭和33年(1958年)に17万カウントが記録されています。当時、沖縄では9割の人が雨水を飲んでいましたから、その影響が心配されます。

2014年の9月19日、日本政府は、これまで「ない」としてきた、事件に関わる文書2700ページを、60年ぶりに開示しました。
その中に日本本土の放射能雨の記録がありました。私はその数値に目を疑いました。
福岡を例に取ると、昭和30年(1955年)からの3年間に3万カウント、14万カウント、22万カウントという数値が観測されていたのです。
「雨にあたると髪の毛が抜ける」という言葉の生まれた背景が、これでよくお分かりいただけると思います。
これをお読みくださっている読者の方の「あれ? 第五福竜丸事件ってマグロ漁船一隻が被ばくした事件だよね?」という声が聞こえてきそうです。
実は、そうではないのです。