二宮清純「“ヘタクソ”里崎智也を一流に育てた男」

二宮 清純 プロフィール

「選択権は選手にある」

 では、山中さんは、ヘタクソだった里崎さんに、どんな指導をしたのでしょう。

 里崎さんは語ります。
「山中さんは選手に選択肢を与えてくれるんです。たとえばワンバウンドを止めるには、どうすべきか。外国人みたいに足を広げて構えるべきか、逆に足を狭めるべきか。一番やりやすいやり方でやってみろ、と言うんです。そして、ブルペンでひたすらピッチャーが実際に投げるボールを捕ることを繰り返しました。

 16年の現役生活で、こういう提案をしてくれたのは山中さんだけでした。AとBとCの方法があるんだけど、Aをやりたいんだったら、それを追求しろ。うまくいかなかったらBを試せばいいじゃないかと。

 山中さんは、いろんな選択肢を示しながらも、“選択権は選手にある”と言うんです。たいていのコーチは逆ですよね。山中さんとの出会いがなかったら、16年も現役でいられることはなかったと思います」

 ベストナイン2回、ゴールデングラブ賞2回。日本が優勝した06年のWBCでもベストナインに輝いた名キャッチャーが恩人と呼ぶほどの指導者ですが、来シーズンも山中さんの姿はNPBにはありません。

「名捕手あるところに覇権あり」とは野村克也さんの口ぐせです。バッテリーコーチの重要性は、もっと認識されていいのかもしれません。