わたしたちのからだを
病原体の攻撃から守るしくみ
20世紀のおわりから21世紀の今日にかけて、免疫の“常識”は大きく変わった。自然免疫が獲得免疫を始動することがわかり、自然炎症という新たな概念もくわわった。
本書では、最新の知見をふまえ、免疫という極めて複雑で動的なシステムの中で無数の細胞がどう協力して病原体を撃退するのか、その流れがよくわかるように解説する。
免疫とは、細菌やウイルスなど、病原体の攻撃からわたしたちのからだを守るしくみのことである。
二〇世紀のおわりから二一世紀の今日にかけて、免疫の〝常識〟は大きく変わった。
たとえば、自然免疫による病原体認識という段階がなければ獲得免疫は始動しないことがわかり、従来の、自然免疫=下等なシステム、獲得免疫=高等なシステム、という図式が崩れ去った。自然免疫と獲得免疫は、どちらが上、下という関係でなく、相互に補完してわたしたちのからだを病原体から守っていたのだ。
一方、最新の研究では、糖尿病、痛風、動脈硬化、アルツハイマー病など慢性炎症がからむ病気は、免疫システムによって引きおこされる自然炎症が原因とする説が有力になりつつある。そうなると、わたしたちがかかる病気の半数以上は、本来は病原体からからだを守る存在である免疫システムが原因となっている可能性が高い。
本書では、こうした最新の知見をふまえて、免疫がはたらく基本的なしくみを、やさしくかみくだいて解説する。とくに、免疫反応の流れがよくわかるように極力留意している。
免疫はきわめて「動的」なシステムである。
無数の免疫細胞が常にからだじゅうを動きまわり、病原体がきたら協同して撃退し、いなくなればすーっと散って、またからだじゅうを動きまわる。天文学的な数の細胞が動きまわっているにもかかわらず、常にからだ全体で調和がとれている。
さらに、無数の細胞が入り乱れて動きまわる「動的」なシステムであるにもかかわらず、〝アクセル〟と〝ブレーキ〟が整然と階層化され、システムの始動と停止がみごとに制御されている。
免疫を真に理解するためには、時間的なアプローチと空間的なアプローチの両方が必要だ。どのような細胞が「いつ」「どこで」「どのように」コミュニケーションをとってはたらいているかを、根気よく追いかけなければ真実は見えてこない。
この複雑さこそ、免疫研究の困難さの象徴であり、また魅力の源泉でもある。
日本の免疫学のレベルは高い。世界に対抗できるレベルといってよいだろう。筆者らが拠点とする大阪大学も、一論文あたりの平均被引用回数で常に世界のトップを競っている。数年前には一位になった。
免疫については、わかっていないことも多い。一度おたふくかぜや水ぼうそうにかかれば二度かかることがないことはだれでも知っているが、その背景となるメカニズムはほとんどわかっていない。
ほかにも未解明の問題が山積みである。
本書を読まれた方の中から、みずから謎を解こうと免疫研究をこころざす人があらわれてくれるなら、これにまさる喜びはない。
また、病気の半数以上に免疫システムが関係している可能性がある以上、免疫の知識はいまやだれもがもつべきリテラシーである。そのためにも本書が役立つことを願う。
目次
1章 自然免疫の初期対応
2章 獲得免疫の始動
3章 B細胞による抗体産生
4章 キラーT細胞による感染細胞の破壊
5章 三つの免疫ストーリー
6章 遺伝子再構成と自己反応細胞の除去
7章 免疫反応の制御
8章 免疫記憶
9章 腸管免疫
10章 自然炎症
11章 がんと自己免疫疾患