単語だけは知っている「エントロピー」その異様さは〈単純さ〉にあり

『エントロピーをめぐる冒険』前書き
鈴木 炎

 さらに、以下のような、初心者が抱きがちな疑問にも明瞭に答えることをめざした。

・現代の物理化学の教科書は、どうして例外なく、古めかしい蒸気機関を持ち出すのだろうか? そんなものは、最先端の分子デバイスや生命科学と無関係ではないか?

・なぜエントロピーの定義式には、全然違う形のやつが三つもあるのか?

・「エントロピーは常に増大する」と言いながら「エントロピーは物質の状態によって定まる関数だ」とも言う。状態関数なのにどうして増大できるのか?

・「エントロピーがすべての原動力だ」と言いつつ「エントロピーとエネルギーの闘いがものごとの進む方向を決める」とも言う。どちらが正しい?

 これらの疑問にひとつでも「おや?」と引っかかりを覚える方は、ぜひ本書を読み進めてみていただきたい。

 筆者は科学史家ではないし、大学で「化学熱力学」の講義を担当しているものの、熱力学・統計力学の専門家でもない。素人のできる範囲で勘違いや誤りがないよう頑張ったが、例によって自信はない。平身低頭、読者のご指摘を待つほかない。

 なお、科学史における実際の展開は紆余曲折に満ちているので、本書における科学的説明は必ずしも原論文どおりではなく、ごく簡単なものに終始することをあらかじめお断りしなければならない。詳細については参考文献をご参照ください。

 数年前、ブルーバックスで翻訳をした本が望外の好評を得たおかげで、本書の刊行が可能になった。が、原稿は遅れに遅れた。講談社の山岸浩史氏には、さんざんご迷惑をおかけしたにもかかわらず、激励をいただき、あらゆる点でお世話になった。鈴木千穂子、鈴木心、イイイン・サンディ・リーの諸氏には、原稿をチェックしていただいた。みなさんに深く感謝します。本書が、エントロピー理解の一助となることを願います。

著者 鈴木 炎(すずき・ほのお) 
富山大学理学部化学科准教授。専門は溶液化学・レーザー化学。理学部化学科の学生を対象とした化学熱力学、並びに経済学部の学生を対象とした一般化学の講義を担当している。翻訳書「理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則」 (ブルーバックス)」(共訳)は、魅力的な訳文も人気を博し、ベストセラーとなっている。趣味は「有名人のお墓の写真を撮ること」。
『 エントロピーをめぐる冒険 』
初心者のための統計熱力学

鈴木 炎=著

発行年月日: 2014/12/20
ページ数: 272
シリーズ通巻番号: B1894

定価:本体  980円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)