勝とうが負けようが何も変わらないーーかくあるべし 藤田寛之「男が惚れる」人生とゴルフ

週刊現代 プロフィール

「当時の彼は、小さい体を補おうとドローボールで飛距離を稼ごうとしていた。そこで、『フェードで確実性の持てる選手になったほうが長生きできる』とアドバイスしました。パターとアプローチはもともとうまかったので、そういう攻め方、戦略をとればいいんじゃないかと。フェードボールを打つようになってから、安定感が出始め、シードを獲得できるようになりました」(芹澤)

芹澤の指導を受け始めて2年後の'97年にツアー初優勝。以来、今期最終戦の前まで18勝を挙げている。藤田を世に出したこのフェードボール、実は芹澤も、師・金井清一から受け継いだ技だ。

「一緒に回ったとき、金井さんが素晴らしくコントロールされた球を打つので、『どうやって打つんですか』と聞いて、その技術を教えていただいた。練習を重ねて僕もその球が打てるようになって、翌年優勝できたんですが、それを藤田にも教えたわけです。その意味では、フェードボールこそが彼が45歳になってもトッププロでいられる基盤だと思います」(芹澤)

師弟関係がもたらす影響について、スポーツ心理学者で追手門学院大学客員教授の児玉光雄氏はこう語る。

「自分がわからないことを客観視して気づかせてくれるのが、師の役割の一つでしょう。選手はプレー中は孤独です。特にゴルフのような個人スポーツは誰か悩みを打ち明けられる人が必要です。師はそういうカウンセリングの役割をも果たすと思います」

スポーツ選手にとって師の存在がいかに重要かがわかる。が、「その点、今の若手はその関係を得るチャンスがない」と、芹澤が指摘する。

「近年、プロになる選手はジュニア時代からのゴルフエリートが多い。ゴルフを教わっているのが父親とか、最初からティーチングプロにつくんです。ところが今はティーチングプロが多い時代で、自分に合わないとすぐ、他の指導プロのところに行ってしまう。父親がべったり見ていて、そこに入り込めないということもありますし。なので、師弟関係は本当に育ちにくい」

石川遼も驚く競技への情熱

丸山茂樹という天才に出会い、その陰に隠れてしまった学生時代。これまでのことをすべて捨て去り、師のすべてを真似ることから始めたプロ入り直後。そして、師から学んだ一子相伝ともいえる技を駆使してベテランと呼ばれるようになった現在。藤田はただひたすら人並み外れた練習を続けてきた。言うほどたやすい話ではない。だが藤田にとってはそれが当たり前だったという。

「ゴルフは急にはうまくならない。向き合う時間が多ければ多いほどうまくなると、勝手に自分の中で思っている。厳しい言葉を自分に投げかけるのも、そこから成長するために、自分の何が悪いのかを捉えたいから」

ラウンド中、藤田は感情を表に出さない。結果がすべてのプロの世界において、勝っても負けても表情ひとつ変えない藤田は異質の存在だが、それも、練習に裏打ちされた自信があるからだ、と芹澤が分析する。