二宮寿朗「柳沢敦物語“第3章”への期待」

二宮 寿朗

19年間続けてきた妥協なき日々

「ゴールだけがフォワードの仕事じゃない」は、何もゴールに対する積極性を弱めることを意味しているわけではない。以前、彼はこう語ってくれたことがある。
「フォワードだからゴールは大事です。だけどゴールを決めるのと同じぐらい、フォワードがほかの仕事をやるのも大事。そこをシンプルに言っただけなんです」
 柳沢のポリシーでもある動き出しの質、オフ・ザ・ボールの動き、チームを助ける働きは年を重ねるごとに円熟味を増した感がある。

 そして彼はいつもフォワードというポジションの厳しさにも向き合っていた。人一倍、ゴールにこだわる姿勢を強く持っていた。
「今、1日1日が勝負だと思っていて、もうちょっと広げると1試合1試合。(試合に出るとき)下手なことをやると、これが最後になるぞって自分に言い聞かせているんです。そればかりだと疲れるんだけど、そういう気持ちを持って僕は準備をしている」
 これは12年のシーズン中に、彼がインタビューのなかで語った言葉。30代後半に突入しても彼が常にベンチ入りできたのは、何よりもフォワードとしての覚悟と矜持があったからだ。

 ドイツW杯の経験が、彼を精神的にもたくましくさせた。度重なるケガにも、バッシングにも屈しなかった。
 プロ19年間、第一線で働けたのも、彼に「第2章」の輝きがあったのも、妥協なき日々を変わらず続けてきたからに他ならない。そして厳しく自分と向き合ってきたからこそ、「ゴール」と「ほかの仕事」の両立を己が納得できるレベルまで維持できなくなりつつある今、引退のときだと判断したのではあるまいか。

 柳沢は引退後のプランがまだ決まっていないという。
 だが、指導者になる目標は持っていると聞く。紆余曲折ありながらも己のポリシーをまっとうしてきた経験を、ぜひ次世代に還元してもらいたいものだ。

 稀代のストライカー、柳沢敦の「第3章」。サッカー人としての彼の物語はこれからも続く。