[裏方NAVI]
川北元(全日本女子バレーボールチーム戦術・戦略コーチ)<前編>「既成概念破りの“ハイブリッド6”」

スポーツコミュニケーションズ

思い出された原点回帰の重要性

 グラチャン後、「MB1をより効果的にした、さらにいいものをつくっていこう」という眞鍋監督の掛け声のもと、全日本女子チームでは翌シーズンに向けた検証が行なわれた。眞鍋監督が考えていたのは、「ミドルブロッカーが1人でも2人でも、さらにはゼロでも、やり方次第では、いろいろな可能性がある。固定概念なくして、さらに可能性を広げていこう」というものだった。そこで、それをどう具現化していくのか、スタッフ全員で率直な意見を出し合い、何度も話し合いが行なわれた。

 海外チームから指導要請を受け、グラチャン後にトルコに渡った川北にも、眞鍋監督の考えが伝えられた。早速、川北は検証にとりかかった。その時、ふと思い出したのが、昨夏、全日本女子チームで米国遠征に行った際に聞いた、現米国バレーボール協会会長のダグ・ビルの話だった。ビル会長は、監督として1984年ロサンゼルス五輪で米国男子代表を金メダルに導いている。この時、ビル会長が編み出したのが、今では主流となっている「リードブロック」だった。

「ビルさんがリードブロックのヒントにしたのは、ロサンゼルスの8年前、モントリオール五輪で金メダルに輝いたポーランドチームだったそうです。ビルさんの印象に残っていたのは、ミュンヘンに続いて連覇を狙っていた日本との準決勝。当時、世界一速かった日本のコンビネーションに対して、ポーランドだけがかく乱されず、ワンタッチをとってレシーブにつなげていた。なぜなんだろう、と疑問に思ったビルさんは、何度もビデオを見返したんだそうです。そうして生まれたのがリードブロックだったと。

 でも、最初は何度も失敗したそうです。それでも検証を繰り返しながら、諦めずに続けた。その結果、世界に通用するシステムを完成させ、そしてロサンゼルスで金メダルを獲ったと。その話を思い出して、眞鍋さんが言う“新たな可能性”を引き出すには、過去に戻って検証する必要があるのかもしれない、と思ったんです」

 そこで川北は、過去の五輪はもちろん、現在のVリーグの前身である日本リーグ(男子)のビデオを何度も何度も繰り返し見た。すると、「こんなにも、いろいろとやっていたんだ」という発見がいくつも出てきたという。

「例えば昔の日本リーグでは、レフトのポジションからセッターの後ろに入って時間差で打っていたり、そのままライトに入ってブロックしたりと、自由な発想でバレーボールが行なわれていたんです。現在のバレーボールは役割分担を明確にしている分、少し型にはまり過ぎている部分があるのかもしれないと感じました。そこから、こんなことができるんじゃないか、あんなこともできるんじゃないかという案が出てきたんです」

 もちろん、他のコーチ陣、アナリストもそれぞれの視点から、それぞれの方法で検証し、意見を出し合った。それを最終的に眞鍋監督がまとめ上げ、ようやくかたちになったのが、5月の代表合宿直前だったという。5カ月にも及ぶ時間を要して誕生したのが、「ハイブリッド6」だった。

 川北はこう語る。
「眞鍋さんは、ぼくたちスタッフをうまく使ってくれているなと思いますね。みんなの意見を聞こうとしてくれますし、ある意味、責任を与えてくれている。だからこそ、僕たちもやりがいをもって、本気で取り組めるんです。眞鍋さんには、自分たちの経験値を高めていただいているなと感謝しています。そして、ハイブリッド6はみんなの意見が集約されたものなんです」
 眞鍋監督が考え出した新システムは、全日本女子チームの結束力によって具現化されていったのである。

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