大谷翔平らが暮らしている 日本ハム「勇翔寮」長所を伸ばす人間教育

週刊現代 プロフィール

大谷は目標を「数値化」できる

最初に来た時、寮の施設はすごくキレイなのに、靴が乱雑に並べられ、ロッカールームも、物が散乱していたのが目についた。前年、5年ぶりのBクラスに沈んだチーム内の空気の乱れを表していると感じました。

「心」「技」「体」の大切さは、よく言われることですが、そこにプラス「生活」が重要であることを選手たちにうまく伝えたかった。

そこで、私は就任直後の2月の沖縄・名護キャンプで、若手選手に球団オリジナルの日誌を配布。「心」「技」「体」「生活」の欄を設け、その項目ごとに、一日でよかった点や課題を書き込めるようにしたのです。

毎日提出される日誌で各選手の心の動きをたどりながら、キャンプ終了後の3月には、高校時代の指導でも採用していた、「長期目標設定用紙」を配りました。

A3判の用紙には、一番大きな目標、達成する過程での中間目標、達成時の自らの人間像にいたるまで書く欄を設定。さらに、目標達成のための毎日の行動を自ら考え、リストに書き込み、それをチェックするのです。

今季、二刀流で見事に結果を出した大谷翔平が書いた「長期目標設定用紙」を目にした時、「すぐに一流になるな」と感じました。用紙をきっちり埋めることも、かなり骨が折れる作業ですが、大谷はしっかり埋めてきましたし、何より、目標設定が明確だったからです。

二刀流として注目を浴びる中、大谷は投手としての目標を「5勝」に置いていました。目標を、この段階で数値化していたことが大事なのです。

このような用紙を手にすると、多くの選手が「まずは投球フォームを固める」といった内容のことを書く。でも、それでは結果がすべてのプロの世界では、自己満足の域を出ない。フォームを固めて、その結果、以前より速いボールが投げられたとしても、勝利につながらなければ意味がない。大谷は、「なりたい自分」に近づくために、目標を数値化することの大切さを知っていました。

1年目のシーズンは結局、投手としては3勝と、目標には届きませんでした。しかし、4月に右足首をねんざし、二軍に降格した時も、「5勝」という具体的な数字が、目標をあきらめない気持ちにつながっていたと思います。

私は寮生に対して、立てた目標をロッカールームと寮の部屋に貼ることを義務付けています。それは、自分が書いたことに責任を持たせるためです。春季キャンプ後と、オールスター後に、個人目標を立て、あまりにも目標と現実がかけ離れてしまった場合は、2ヵ月に1度の割合で担当コーチと話し合いながら、修正を加える。若手社員の育成にこの手法をとっている企業もあるそうですが、多くの企業では、社員が書いた目標を机にしまってしまう、と聞きます。

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