汗にまみれ、泥にまみれた男。血飛沫に染まった男。義に生き、筋を通した男。弱い者にはとことん優しい男。世渡りのヘタな、愚直な男。あなたこそ日本人の「理想の男」だった—。
「他の人には真似のできない役者でした。脚本を書くとき、『高倉健だから演じられる』という役を書くことはできたけれど、健さんがいなくなると、もうその役は誰も演じられない。健さんが演じていた役も、もう書けなくなる」
脚本家の倉本聰氏(79歳)は、こう肩を落とした。
日本人が本当に愛した、昭和を代表する男が逝った。
俳優・高倉健(享年83)。11月10日、都内の病院で悪性リンパ腫のため亡くなった。次回出演作の準備中に体調を崩し、そのまま入院、他界。急逝と言っていい、思いがけない死だった。
映画の世界で生きてきた健さん。倉本氏は、その健さんが出演した数少ないテレビの連続ドラマ『あにき』('77年・TBS系)の脚本を担当した。いまはただ、「びっくりして、茫然としている」と話す。
「僕みたいな不摂生な人間が生き延びて、あんなに健康を気にしていた人が亡くなってしまうなんて……。
僕は健さんが好きでした。男の美学をしっかり持っていた。あれほどまでに『男』というものを突き詰めて考えていた人はいない。古武士のような人でした」
男のなかの男。健さんを知る誰もが、そう呼んではばからない。