優秀な人こそ社内で孤立する!? 「脱派閥が正義」と考えることの危険性

『社内政治の教科書』第5回
高城 幸司

派閥が生まれるのは「自然現象」である

私は、人の生き方は多様であったほうがいいという考えです。ですから、中立派を貫くのもいいし、孤高の存在をめざす人がいてもいい。島耕作の生き方も大好きです。

ただし、「脱派閥」を"正義"と捉えるのは、いささか危険ではないかと考えています。なぜなら、「3人集まれば派閥が生まれる」と言われるように、人の集まりである会社に派閥が生れるのはごく自然なことだからです。

ピラミッド型の組織では、上層部にいけばいくほどポストは減りますから、ポスト争いは、制度上避けられない現象です。そして、あるポストに2人の候補がいれば、それぞれを支持する人々が派閥をつくるのは自然なことです。自分を重用してくれる人物を押し上げることによって、自らの利益を図るのは人間として自然な感情だからです。

あるいは、どんな会社でも部署ごとに緊張関係があります。開発部門は売れ行きのはかばかしくない商品でも、営業部門に粘り強く売ってもらいたいと考えます。しかし、営業部門にすれば、売れ筋の商品を売り伸ばすほうがよほど営業効率がいい。営業部門は接待費をかけて取引先と関係を強化したいが、経理部門は経費削減を求めます。立場によって「正論」は異なるのです。そして、「正論」を共有する者どうしが仲間意識を強め、派閥化していくのは、ごくごく自然なことなのです。

そもそも、人間は「群れる生き物」です。親近感のある人とのつながりを深めたい。仲間を増やして、集団内での「居場所」を確保したい。力の強い者の庇護下に入って、身の安全を確保したい。このような人間の本能に根差して生れるのが派閥です。いわば、派閥は自然現象なのです。

つまり、「脱派閥=正義」と考えるのは、自然を否定するに等しいということです。これが危ない。自然に逆らっては、何事もうまくいかないからです。

なぜ、優秀なビジネスパーソンが、社内で孤立するのか?

あるメーカーの経営企画室長を務める千葉さん(仮名、56歳)に、こんな話を聞いたことがあります。部下のAさん(42歳、係長)についての愚痴でした。

Aさんは、頭の切れる人物だそうです。勉強熱心で経営戦略に関する広く深い知識をもち、ビジネススクールなどで築いた社外人脈も豊富。ときには、外部から勉強会に招かれることもあるそうです。

ところが、手を焼いているといいます。事あるごとに、社内でトラブルを生んでしまうからです。いまでは、すっかり社内で孤立しているそうです。

「各部門にはそれぞれ思惑もあるし、他部署との力関係もありますよね? いわゆる、派閥の論理があるわけです。だから、少し組織をいじろうとするだけでも、いろいろな反発が出てくる。そのへんの事情もくみ取りながら、うまく部門間のすり合わせをするのも僕たちの大事な仕事なんです。ところが、彼はなまじ知識があるでしょ? なんでも理論どおり、プランどおりに事を進めようとしすぎる。困ったもんですよ」

他部署との会議でも、反発を受けるとよくこんなことを口にするそうです。

「それは、あなたの部署の都合ですよね? 部分最適をいくら積み上げても、全体最適は生まれません。経営の教科書に書いてあるとおりです」
「まだ、そんなことを言ってるんですか? B社の改革はご存知ないんですか? このままじゃ、差をつけられるだけですよ」

当然、反発は強まるだけ。「なんだよ、あいつは……」「そんなにB社がいいんなら、さっさとそっちに転職しろよ」となるわけです。「少しは部署ごとの気持ちも考えて発言しろよ」と注意すると、「そういう"派閥的"な発想をするから、会社はダメになるんですよ」と反論されたそうです。

「いつも尻拭いするのは室長の僕。手間がかかってしょうがない。他部署との飲み会に誘っても、一回も来ないしね。社外で評価されてても、あれじゃ使い物にならないですよ。だから、もう彼には他部署との折衝は任せてません。もっぱら資料づくりに使っているだけ。後輩が課長に昇進してるのに、わかんないのかな? 正直、異動させたいけど、引き受ける部署なんかないしね……」

まさしく、Aさんは「孤高の存在」タイプ。おそらく、彼は「脱派閥」を"正義"と考えているはずです。しかし、このように派閥に背を向けて、派閥を否定するような仕事の仕方をしている限り、彼の学んできた戦略知識が生かされる日は来ないでしょう。